定期通信 第64号

定期通信第64号は、2024年11月22日に、東京農業大学世田谷キャンパス内国際センター榎本ホールで開催された「2024年度第2回講演会」の聴講録です。講演の概要を簡潔に取りまとめ、数枚のスライドを挿入して、ご講演をいただきました、田中 誠 先生、速見 基弘 先生、吉田 佳弘 先生、田中 宏和 先生、に監修をしていただいたものです。

会誌「食の安全と微生物検査」第14巻第2号の資料を合わせてご覧ください。 講演会の動画記録を会員限定ですが、Vimeoでアーカイブ配信しています。なお、会場に備え付けられた設備機器が突然の不調を来したため、講演1についてはお届けすることができません。利用方法については、当法人のホームページの会員専用ページをご覧ください。

●講演1
食品ロス削減への取組みと食品安全(田中 誠 先生)
●講演2
事業系食品ロスの削減への取組 (速見 基弘 先生)
●講演3
チルドサラダ商品の消費期間、賞味期間延長技術と食品安全-カット野菜、ロングライフサラダ、高圧処理サラダ- (吉田 佳弘 先生)
●講演4
脱酸素剤による食品の品質保存技術~微生物制御への有効性(田中 宏和 先生)

講演1
食品ロス削減への取組みと食品安全
田中 誠
消費者庁 消費者教育推進課 食品ロス削減推進室長

1. 食品ロスの発生要因とは

我が国では食品ロスが年間約500万トンもあり問題となっている。食品廃棄物の焼却で多くの温室効果ガスが発生していること、国内で9人に1人の子供が食べ物に困っている現状がある。2022年度の推計では、食品廃棄物等2,232万トンのうち食品ロス量は472万トンであった。

食品ロス量は家庭系と事業系に分けられ、家庭系では食べ残しと直接廃棄、事業系で外食産業と食品製造業に関わる食品ロスが多くを占めている。この食品ロス量を基に推計した結果、食品ロスによる経済損失は4兆円、食品ロスによる温室効果ガス排出量は1,046万トン-CO2となった。この推計値を国民一人あたりに換算すると経済損失は32,125円/年、温室効果ガス排出量は83 kg-CO2/年であった。

講演1スライド01

2. 食品ロス削減目標に向けた施策パッケージ

2019年10月1日に食品ロスの削減を推進するための「食品ロスの削減の推進に関する法律」が施行された。同法には、政府が食品ロス削減推進に関する基本方針を策定することや地方公共団体、事業者、消費者がそれぞれの立場で、食品ロス問題を“我がこと”と捉えて行動することを促進すると明記されている。

また、食品ロス量を2000年度の980万トンと比べて、2030年度に事業系、家庭系ともにそれぞれ半減する目標489万トンが掲げられている。直近5年間の食品ロス量の平均は614万トンとなっており、目標まであと125万トンの削減が必要である。食品ロスの要因にある食品製造業・食品卸売業での返品や家庭における直接廃棄、外食産業における食べ残しのうち調理加工食品は持ち帰り得る食品として削減できれば目標を達成できると推計した。

このことから、「食品ロス削減目標に向けた施策パッケージ」を取りまとめ、食品廃棄物の排出削減の取組とともに、まだ食べることができる食品の再利用を促進していくこととした。そのため、本パッケージでは、未利用食品を活用するフードバンク活動を始めとする食品寄附活動、外食時の食べきりに係る取組と食べ残しの持ち帰りの取扱いについて具体的な施策がまとめられた。

講演1スライド02

3. 検討会における取組み

2024年度は、未利用食品の提供 (食品寄附) の促進にあたっては、まず、「食品期限表示の設定のためのガイドライン」について期限表示の設定根拠や安全係数の設定等の実態を調査し、「食品期限表示の設定のためのガイドラインの見直し検討会」を開催し、検討を進めている。

つぎに、未利用食品等の提供(食品寄附活動) の促進のためには、食品ロス削減・食品寄附に対する社会的信頼を高めていく必要がある。そこで、法的・技術的・経済的な課題や解決策を協議し、取りまとめる場として、「食品寄附等に関する官民協議会」(以下、官民協議会)を立ち上げた。すでに官民で策定されている既存の各種ガイドライン・手引き等を参照しつつ、各主体が一定の管理責任を果たすことができるようにするために遵守すべき基準や留意事項を示したガイドラインを官民協議会における議論を通じて作成する。

外食時の食べ残し持ち帰りの促進については、外食産業からの食品ロスの多くが食べ残しであることを踏まえ、事業者及び消費者双方の協力と理解のもと、食べ残しの持ち帰りの促進を図ることが食品ロス削減推進のうえで有効とされている。他方で、多くの飲食店等が食べ残し持ち帰りの取組に一歩を踏み出せない理由として、食べ残し持ち帰りに係る法的関係が不明瞭であるうえ、持ち帰りに伴う飲食店等の法的・衛生的なリスク等がこれまで指摘されている。

これらの関係を明確化し、外食事業者及び消費者双方の意識の変化や行動変容に繋がるよう、食べ残し持ち帰りに伴って生じ得る法的責任について、消費者の自己責任を前提としつつ、民事上のトラブルを回避するために留意すべき事項を含め、2024年度12月に食べ残し持ち帰りを促進させるガイドラインを策定した。

講演2スライド03

4. 災害備蓄及び提供

国は災害時に備えて災害用備蓄食品を保有している。入替えに伴い不用となった災害用備蓄食品は多くが廃棄されており、食品ロス削減の観点から課題となっていた。令和2年度には農林水産省、文部科学省、消費者庁において災害用備蓄食品をフードバンク活動団体に提供を行った。

賞味期限を過ぎた災害用備蓄食品をフードバンク団体等に提供するにあたり、フードバンク団体等が当該食品を安心かつ円滑に消費できるよう、消費者庁が「いつ頃までに食べ切るべきか」といった消費の目安となる期限を示している。期限の設定にあたってはメーカー等と相談の上、品質状態を確認するための細菌検査及び官能検査を実施、専門家の助言等を踏まえ賞味期限から3か月後と設定した。

食品ロス削減、食品寄附促進、食品アクセス確保の3つの施策を包括する概念を「食の環」と呼ぶことについて申合せを行った。政府では様々な施策をとおして食品ロス削減及び食品寄附の促進に向けて取り組んでいる。

講演1スライド04

Q&A

Q1-1食品ロスにおける関係省庁と役割分担はどうなっているのでしょうか ?

A1-1消費者庁、農林水産省、環境省の3つがメインとなっており、消費者庁が各省庁の指令塔となっている。 事業系は農林水産省、家庭系は環境省が担当しており、衛生面の話では厚生労働省、事業の促進に関しては経済産業省、食育の観点では文部科学省、子ども食堂等への食品寄附では子ども家庭庁が関係している。

Q1-2食品ロスにおけるリスクとは何でしょうか?

A1-2持ち帰り食品の食中毒の危険性があると考えている。賞味期限の延長に対する政府とメーカーの考え方に違いがある。

Q1-3消費期限の超過の目安はどれくらいでしょうか?

A1-32割くらいまでの延長を薦めている。

Q1-41/3ルールのように基準を定める動きはあるのか?

A1-4動きはあるがあくまで努力義務の範囲のルールと認識している。

Q1-5条例の影響で食品ロスは避けられない状況にありますが、中央省庁としてご意見を頂きたい。

A1-5計画生産に切り替わってきていて、余剰をなくす方向に向かっていると認識している。

Q1-6製造年月日が分からないため期限の目安が分かならいのでアドバイスを頂きたい。

A1-6ガイドラインで整えていきたいと考えているが、メーカー側の対応に期待したい。

Q1-7食べ切る目安はどのように決めたかのか、その背景について教えて頂きたい。

A1-7安全性を考慮して専門家の意見を聞きながら設定している。

Q1-8メーカーはどの程度の安全性余裕を考慮して試験を行えば良いか、ご意見を伺いたい。

A1-8期限はガイドラインに沿った科学的試験(微生物試験、官能試験など)をもとに設定していれば問題ないと考えている。

Q1-9食品ロスは経済損失ではないと思いますが、いかがでしょうか。

A1-9まだ食べられる(価値のある)ものを捨てているという点で損失と捉えている。

(更新:2025.2.22)

» このページのTOPへ


講演2
事業系食品ロスの削減への取組
速見 基弘
農林水産省 大臣官房 新事業・食品産業部 外食・食文化課 食品ロス・リサイクル対策室 課長補佐

1. 食品ロスの現状

農林水産省では事業系食品ロス削減に取り組んでいるが、これは国際的な食品ロス削減に関する高まりが背景にあるためである。SDGsのターゲット12.3に挙げられている食品ロス削減だけでなく、容器包装資材、天然資源の持続的な管理、飢餓の撲滅などにも関連してくる内容である。

令和4年度の事業系の食品廃棄物等と食品ロスの発生量を見ると、ふすまなどに代表される有価物や不可食部分を含む事業系食品廃棄物等は1,525万トンと推計されており、この中で売れ残りや食べ残しなどの食べられる部分である事業系食品ロスは236万トンとされている。

これを業種ごとに見てみると、食品製造業では食品廃棄物等に占める食品ロスの割合は1割程度であるが、サプライチェーンのなかでより消費者寄りとなる食品小売業、外食産業ではその割合が5割を超える業種もある。平成24年以降の食品ロス量の推移を見ると、令和2年以降で外食産業の食品ロスが大きく減ってきていることがみて取れる状況にある。

講演2スライド01

2. 食品ロスの削減に関する法制度・目標

食品リサイクル法の位置づけとしては、基本的枠組み法として「循環型社会形成推進基本法」があった上で、容器包装リサイクル法や家電リサイクル法など個別のリサイクル法が存在し、その一つとして食品リサイクル法が存在する。

取り組みの優先順位としてはいわゆる3Rと言われる
① 発生抑制(Reduce)
② 再利用(Reuse)
③ 再生利用(Recycle)
があり、その先の取り組みとして
④ 熱回収
⑤ 適正処分
という順になる。食品リサイクル法でも、先ずは発生を抑制するというアプローチを取って様々な取り組みを行っている。

食品リサイクル法の基本方針としては、食品ロス削減を含めて食品廃棄物等の発生抑制が優先事項として位置づけられており、その上で発生したものについてはリサイクル等を推進するという形になっている。事業系食品ロス削減に関しては、2000年度比で2030年度までに半減させる目標を設定しており、食品関連事業者は食品廃棄物等の発生原単位が基準発生原単位以下になるように努力することを基本方針のなかに明記している。

事業系食品ロス削減の目標は2024年6月に公表された最新の実績で達成されたことが確認されたため、現在は審議会のなかで目標の見直しに関して議論が進められており、今年度中には何らかの数値目標を見直す見込みとなっている。

食品廃棄物等の基準発生原単位については、発生抑制の実施が著しく低い企業を底上げし、業種全体で発生抑制に取り組めるようにするために定められており、定期報告の対象業種である75業種のうち、目標を設定することが望ましいと考えられる35業種で設定されている。

例えば、肉加工品製造業では売上100万円当たり113 kgを基準発生原単位として設定しており、これを下回るように歩留まり向上など、現場のオペレーションを工夫するなどに取り組んでもらうようにしている。ただしこの単位は7割の企業が達成できるものとして設定していることから、これを下回る企業に努力をしてもらいたいという意味合いがある。

講演2スライド02

3. 事業系食品ロスの削減に向けた取組

食品ロス削減に向けては、業種ごとに主な発生要因とそれに向けた取組を行っている。食品製造業や食品卸売業においては賞味期間の1/3以内で小売店に納品する商慣習、いわゆる「3分の1ルール」が要因であり、これについては納品期限の緩和をした企業の公表や賞味期限の年月表示への取組を行っている。

食品小売業においては販売機会を逃したくないという思いからの大量発注や購入者である消費者の賞味期限への誤解が要因であり、これについては需要に見合った販売の呼びかけやフードバンクとの連携、外食産業では食べ残し対応として「食べきり」、「持ち帰り」などの呼びかけを行っている。

1)商慣習の見直し

3分の1ルールの見直しとして納品期限の緩和への取組がある。小売店などが設定するメーカーからの納品期限及び店頭での販売期間は、製造日から賞味期限までの期間を3等分して設定される場合が多く、商品廃棄発生のひとつの要因とされ、フードチェーン全体での取組が必要となっている。

ただし納品期限の見直しに関しては中間流通における納品期限の在り方に関して課題がある。例えば、専用の物流センター(小売店と物流センターが1対1の関係)があれば納品期限のハンドリングが自社判断で対応可能となるが、汎用の物流センター(他社と共有する関係)の場合では、他社と共有するため納品期限を他社と合わせる必要が出てくるため、その物流センターを利用する小売店・食料品スーパー全体として納品期限緩和の取組が必要となってくる。

また対象品目に関しては、比較的賞味期限の長い飲料や賞味期限が180日以上あるような菓子、カップ麺(推奨3品目)の緩和を基本としながら、レトルト食品や袋麺、調味料などの他の品目に拡大している。納品期限の見直しに関しては小売側のメリットが見えないという意見があり、これについては賞味期限の年月表示化を合わせて行うことで商品管理における省力化につながるという点をメリットとして伝えている。

さらに製造側での対応が必要となるものの、製造工程における食品の品質保持技術の発展(包装資材の進歩など)により賞味期限の見直し、すなわち賞味期限の延長についての取組も推進している。常温流通の加工食品は、「納品期限の緩和」「賞味期限の年月表示化」「賞味期限の延長」を三位一体で推進している。現在、食品廃棄物等の発生抑制に向けた取組の情報連絡会が構成され、取組を進める上での課題やその解決策を共有してその活動が推進されている。

納品期限緩和に取り組む事業者の推移を見ると、当初は大手の総合スーパーとコンビニエンスストアを中心にして取組みが進められ、令和元年3月時点では39事業者であったが、直近では食品スーパーを中心に取り組みが拡大し、令和5年10月の段階では297事業者に増加している状況にある。

講演2スライド03

2)需要に見合った販売の促進、消費者への啓発

季節商品としての恵方巻のロス削減について見ると、2019年1月に小売業者の団体に対して恵方巻の需要に見合った販売を呼びかけ、製造計画の見直しやサイズ構成の工夫等の取組みを行った結果、約9割の小売業者が前年より廃棄率が改善された。2020年より恵方巻のロス削減に取り組む小売事業者に消費者向け啓発資材を提供し、事業者名を公表しており、2024年度は99事業者まで拡大してきている。

消費者への啓発としては、食品スーパーやコンビニエンスストアの取組みとして、直ぐ食べる場合には商品棚の手前にある商品を選ぶ「てまえどり」への呼びかけがあり、食品ロス削減の効果が期待される。飲食店等での取組としては「食べきり」、「持ち帰り」の促進といったものがある。

外食事業者からの情報によると、インバウンドの観光者、特にツアーで来日される方々は食事の時間と買い物の時間が一緒に組み込まれていることが多いので、食事の時間をなるべく短縮して買い物に時間を割きたいといった事情から、食べ残しに繋がるケースがあるようである。近年ではICTやAI等の新技術を活用した未利用食品の販売(シェアリング)や食品の需要予測など、食品ロスの発生防止につながる新たな民間ビジネス(需要予測やダイナミックプライシングなど)が開始されており、これらのビジネスが食品ロス削減に向けた取組として期待されている。

講演2スライド04

3)フードバンク活動の推進

フードバンク活動とは、食品ロスの文脈で捉えれば食べられるものを食べられる方に無駄なく回していこう(フードバンクへの寄附)という取組である。生産、流通、消費などの過程で発生する未利用食品を食品企業や農家などからの寄附として受けて、必要としている方や施設等に提供する取組であり、日本では最近になって広がっている活動である。

講演2スライド05

Q&A

Q2-13分の1ルール等が来月以降にガイドラインが出るとのことであるが、今後、法令のように基準を定める動きがあるのか? 例えば令和○○年までに3分の1ルールを2分の1ルールに統一するなどがあり得るのか、教えて頂きたい。

A2-13分の1ルール等の商慣習の見直しについては、食品リサイクル法の基本方針見直しのなかで法令的に位置づけをしようとする動きはある。具体的には事業者が取組む際の判断基準の提示をしている省令があるが、その中に入れようと議論はしている。ただし、あくまで商慣習というビジネス上のルールであるため、法律的に強制して取組む性格のものではないと判断しているため、努力義務のような形で理想的なものは提示しつつも、これに向かって取組んでいただくような形を想定している。

(更新:2025.2.22)

» このページのTOPへ


講演3
チルドサラダ商品の消費期間、賞味期間延長技術と食品安全
-カット野菜、ロングライフサラダ、高圧処理サラダ-
吉田 佳弘
キユーピー株式会社 研究開発本部 食創造研究所 野菜価値創造部 野菜・惣菜研究チーム チームリーダー

1. チルドサラダ商品の特徴

チルドサラダ商品の消費期限延長を考える場合、食品安全・微生物リスクがボトルネックになりやすい。チルドサラダの微生物制御にはハードル理論が用いられているが、風味や食感などが優先されることから、用いるハードルにも限界がある。

微生物制御を達成するためには、原材料の選別・殺菌、製造工程の清浄化による初発菌数の低減、微生物制御の因子の追加によるハードル数の増加、殺菌条件、低温流通、低pH 等の強化によるハードルの高さの調整、の3点が重要となってくる。

ハードルを複数組み合わせる複合効果により、食品に一次的あるいは二次的に汚染した微生物を制御する技術が必要となるが、これらは商品設計の段階で十分に検討しておく必要がある。当然のことながら、サラダ・惣菜の安全性確保の考え方として、製造の段階での加熱工程の有無や包装形態(勘合容器、密封容器)の違いにより制御する指標菌が変わってくる。

食品の加工度・保存温度と微生物リスクを考えた場合、RTP(Ready to Prepare)商品、RTC(Ready to Cook)商品、RTH(Ready to Heat)商品、RTE(Ready to Eat)商品などそれぞれの加工度の違いにより対象となる微生物リスクが異なってくる。

チルドサラダ商品とカテゴリーを見た場合、カット野菜は用いるハードルの数が少なく、その高さが低いことから、消費期限が3日程度であるが、ロングライフサラダは賞味期限が30日以上ある商品であり、包装後の加熱殺菌工程があるのが特徴である。

新しい技術としては高圧処理サラダがあり、これは加熱殺菌の代わりに高圧処理(HPP処理)により微生物制御を行うもので、賞味期限が14日から20日程度の商品であり、野菜のフレッシュさや色調を残すことが可能な新技術となっている。

講演3スライド01

2. カット野菜

カット野菜の鮮度保持(消費期間)の延長への取り組みとして、キユーピーグループでは1999年から2014年までは消費期限をD+3で設定していたが、2015年以降は2段階殺菌の効率化によりD+4、その後2019年からは炭酸水を活用した殺菌技術の追求の取り組みによりD+5まで消費期限を延長してきている状況である。

カット野菜の消費期限延長の技術としては、代表的なものとして2つの技術がある。一つ目は充填・包装工程の技術であり、これは混合ガスをバランスよく封入することでカット野菜の鮮度向上を図っている。二つ目は洗浄・殺菌工程の技術であり、野菜の生命力を生かす技術で鮮度向上を図っている。

充填・包装工程では酸素・窒素・二酸化炭素などの混合ガスを野菜に応じたバランスで封入することにより、鮮度が長続きするようにしていることで消費期間の延長が可能となっている。この技術の効果としては、例えば二酸化炭素の濃度をコントロールすることにより野菜の呼吸をコントロールし、臭いを抑える、変色を抑える、細菌を抑える(腐敗の抑制)ことができるようになっている。

洗浄・殺菌工程ではカット前の洗浄とカット後の洗浄の技術であり、カット前は野菜を良く洗浄するが、カット後は野菜表面の細菌をやさしく洗浄するという2段階殺菌の効率化により千切りキャベツなどの日持ち延長を図っている。野菜の殺菌を考えた場合、強い殺菌を行えば初発の菌数を低下させることは可能であるが、強い殺菌は野菜自体を痛めてしまうため保存後の菌数が高くなってしまう、つまり保存性が悪くなる傾向がある。

また、工場出荷後の温度管理についても、物流を含めたコールドチェーンが重要となるが、バックヤードでは一時的な温度上昇もあり得るし、売り場の温度についても冷蔵庫の設定温度と実温が異なる場合もあり得る。このため実状を踏まえた微生物コントロールを考える必要もある。

なおカット野菜の規格基準を見て見ると、EUでは製造工程終点と店頭販売時の基準があるが、日本ではカット野菜に特化した微生物基準などは示されていない。消費期間を延長することにより、チャンスロス削減、フードロス削減、まとめ買いなどへの貢献が期待される。

講演3スライド02

3. ロングライフサラダ

ロングライフサラダ(LLサラダ)は賞味期限が45~60日間の商品であり、流通温度1~10℃を想定し、パウチタイプの容器に入れた、100℃以下の低温殺菌工程があるのが特徴である。このため様々な原料を使用することができ、また様々な微生物制御技術を組み合わせることで、差別化を図ることが可能となっている。

商品としては、素材の広がりと味の広がりを持たせることができる。LLサラダは日持ちとフレッシュさの両立、安定した味や食感、大きな具材の使用が可能といった強みがある反面、加熱による味や食感の変化、pH管理に伴う酸味、キュウリ等の緑色の野菜の退色といった弱みもあるが、フレッシュサラダと比較した場合には流通、供給面で強みを持つ。

チルド商品の賞味期限設定を考える場合、安全係数をどのように考えるかなど、期限内に規格の菌数に収めるような制御が重要となるが、併せて食感等のおいしさを保証する必要もある。

加工食品のリスク負担に関しては、常温品もチルド品もある一定期間、品質を保持する点では同じであるが、常温品はメーカーが100%を保証するのに対し、チルド品の場合にはメーカーだけでなく流通・販売・消費者のそれぞれが10℃以下などの要求事項を守ることで品質を保持することになる。

講演3スライド03

4. 高圧処理サラダ

HPPは食品本来の風味や栄養素を維持しつつ、伝統的な加熱処理や薬品処理の代替えとなり得る殺菌・静菌技術である。

この技術の利点としては次のようなものがある。1点目として香気成分や色素成分、栄養成分、機能性成分の損失が少なく、異臭や安全性を脅かす物質が生じない。2点目として均一な処理ができ、食品の大きさや形状に関係なく圧力が伝わるため調理に無駄が無い。3点目として圧力は瞬時に均一に伝わるため、省エネルギーでの処理が可能で、加熱殺菌に比べてCO2削減に貢献できることである。

高圧処理技術の利用分野としては、飲料や農産物加工品、肉加工品などが多いが、サラダにも活用できる技術として研究を続けているものである。

従来の加熱処理では加熱によるダメージとしてフレッシュ感の低下や緑色野菜の変色という課題があったが、高圧処理では処理前後で変化が無いことから、フレッシュ感の維持や彩り、食感をキープできるなどのメリットがあり、これまで使用できなかったキュウリ等が使用可能となってきている。この技術を活用することで、フレッシュ感を維持したまま、安全に食べられる期間を延長(従来:2~4日、高圧処理:20日程度)させることができるようになった。

高圧処理技術では食中毒菌も含めて大幅な菌数低減が期待できるが、一部の菌が損傷した状態で残存したり、芽胞菌に関しては高圧処理単体では菌数減少効果が低かったり、といった課題があることも明らかになってきた。

現状としては課題もあるが、将来的には主流の食品処理方法の一つとして確立させたいと考えており、従来の加熱処理技術も適切に使いこなすことでフードロスやエネルギー削減による環境面への貢献をしつつ、惣菜の計画生産化による働きやすい環境の実現を目指して行く予定である。

講講演3スライド04

Q&A

Q3-1芽胞菌は高圧処理での菌数低減効果が低く、加熱処理を組み合わせているとのことであるが、具体的に高圧処理と加熱処理の組み合わせで効果が出ている例があるのか、教えていただきたい。

A3-1一部の事例とはなるが、芽胞菌が多いと予想される原料については個別に事前の加熱処理を行うことがあるが、それ以外の場合には原料を混ぜた上で高圧処理を実施している。

Q3-2800 MPaまで加圧しているとの話であったが、さらに高圧にして処理することはあるのか?また、検討はされているのかを教えていただきたい。

A3-2800 MPa以上の加圧処理できる機械が見当たらないので、検討したことはない。あまり強い処理を行うと食感が変わる可能性もあると思われる。

Q3-3高圧処理により菌数低減効果があるとのことであるが、グラム陽性菌とグラム陰性菌など、菌の種類とか構造の違いによって効果に差があるのか知見があれば教えていただきたい。

A3-3差があるとは考えているが、詳細については現在研究を進めている。

Q3-4静水圧で処理されるとのことであるが、実際の生産段階ではどのように処理しているのか、連続生産を想定した時の様子を教えていただきたい。

A3-4現状は工場で生産する時もバッチ式での処理となっている。レトルト食品での処理と同様なものと考えていただきたいが、ある程度の量を一度に処理することはできている。高圧処理は均一に処理することが可能なため、加熱処理時に気にするような隙間などは考慮しなくても良い。

Q3-5やさしい殺菌の事例としてキャベツについて説明されていたが、他の野菜でもそれぞれのやさしい殺菌方法があるのか教えていただきたい。

A3-5キャベツ以外の野菜でも、カット前はしっかりと殺菌して、カット後はやさしい殺菌とするという考え方は概ね有効に作用する。詳細についての説明はできないが、最初は200 ppm程度の次亜塩素酸ナトリウムで処理して、その後は洗浄する程度の処理を想定していただければ良い。

Q3-6包装資材を商品別に開発しているのか教えていただきたい。

A3-6商品の特性に応じて、包装資材と封入するガスの種類について決めている。

Q3-7容器包装についてもポジティブリスト制が始まり、今後はバリアフィルムなどにも広がっていくと考えているが、バリアフィルムを接着する接着剤の溶出などが問題となることはあるのか情報があれば教えて頂きたい。

A3-7高性能のバリアフィルムはカット野菜のように消費期限が3日とか5日の商品にはあまり使われない。レトルト食品のように賞味期限の長い商品については高性能のフィルムが使われると思われる。

Q3-8国内ではカット野菜について一般生菌数の基準がないとのことであるが、自社基準で何か目安となっている数値はあるのか教えていただきたい。

A3-8製造時の管理基準として使用する場合はあるが、製品規格としての数値基準は無い。カット野菜などは商品特性として106とか107 CFU/gといった場合も想定される商品カテゴリーと認識しているが、菌数が高いからと言って危害が考えられる商品とは考えられていないと思われる。

Q3-9高圧処理サラダの流通温度のブレによるリスクはどのように考えているか教えていただきたい。

A3-9流通温度のブレによるリスクはあると認識しているが、まだ発売して期間が短いという事情もあり実績が十分に積み切れていないと考えている。実績が確認できるまでは安全率を大きめに持って評価している。

Q3-10高圧処理は芽キャベツのように内部に菌が潜む野菜についても効果的なのか?それとも外部に付着している菌のみに有効なのか知見があれば教えていただきたい。

A3-10理論上は内部に存在する菌にも効果があると思われる。ただし、洗浄等で初発菌数を低下させてから高圧処理するという使い方が基本と考えている。

Q3-11野菜は産地や年度、気候変動などによって菌の数や種類、耐性などが異なると思われるが、そのリスクをどのように考えているか?また、これまでの制御が効かない菌が出てくる可能性についても知見があれば教えていただきたい。

A3-11可能性という点では、今後も未知の領域ということであれば可能性はあると思われる。何か兆候が見えた段階で手を打つ必要があると考えている。また、現状の製品でデータを積み重ねることで見えてくることもあると考えている。

(更新:2025.2.22)

» このページのTOPへ


講演4
脱酸素剤による食品の品質保存技術 ~微生物制御への有効性
田中 宏和
MGCエージレス株式会社 エージレスサービスセンター カスタマーサービス部長

1. 酸素の影響を回避するには

食品の劣化は空気中の酸素によって引き起こされるものが多く、カビ発生、油脂酸化、風味劣化、変色などいずれも酸素が関係している。この酸素を化学反応で吸収するのがエージレスであり、酸素を吸収することで容器内の脱酸素状態を保つことができる。

また併せて、脱酸素剤包装にガスバリア性フィルムを用いることで長期的に脱酸素状態を維持できる。これにより、上記の品質保存における問題を防ぐことができる。

講講演4スライド01

これまで酸素除去技術として用いられていた真空包装機やガス充填包装機にはデメリットが多々ある。脱酸素剤包装の長所として、確実に酸素濃度0.1%以下にできる点や包材から透過してくる酸素を除去し続ける、バリア包材とシール機があればどこでもできるなどが挙げられる。

脱酸素包装により害虫の発生を防ぐ効果もある。エージレスによる脱酸素包装で、成虫はもちろん、燻蒸では困難な虫の卵まで薬品を使用せずに殺虫が可能となっている。

2. 脱酸素剤包装の特徴

包装食品の変質要因として、化学的酸化の他に微生物によるものが挙げられる。窒素ガス充填包装では16日後にはカビの発生が認められたが、エージレス使用下では20日後もカビは発生していなかった。寒天培地においてもエージレス使用下ではカビが発生しなかった。エージレスではカビの発生抑制だけでなく死滅させることもできる。

餅などの高水分食品では4属の特殊なカビの増殖を完全に阻止できないが、酸素透過度の低い外装を用いることで防止できる。酵母は発酵により酸素がなくてもエネルギー獲得ができるが、生育には酸素が必要となるため、酸素濃度を0%に限りなく近づけることで酵母の生育を抑制できる。

嫌気性菌は酸素濃度の低さではなく、食品の酸化還元電位により生育できるかが決まる。エージレス使用による酸化還元電位の低下はあまり起きないため酸化還元電位が高い食品には嫌気性菌は生育しない。しかし、もとから酸化還元電位が低い食品では嫌気性菌の生育を防ぐことができない。

講講演4スライド05

エージレスパックには、①ガスバリア性の高い包装材料を用意する、②商品の性状包装容器の容器に適したエージレスを選ぶ、③シール機で完全に密閉する、④エージレスの取り扱いが適正であることが必要で、これら4つの条件を満たすことで脱酸素状態を作ることができる。酵母や細菌など脱酸素剤包装では生育を完全に防止することができない場合が多いため、製造時の菌汚染防止や温度管理に注意したうえで、脱酸素剤を使用する必要がある。

講講演4スライド05

Q&A

Q4-1バリアフィルムの接着剤が溶出することがあるか教えていただきたい。

A4-1試験で接着剤の溶出は確認されていない。弊社では確認しておりません。

Q4-22重包装の例として餅製品が挙げられていましたが2枚のフィルムは違う種類のものであるか教えていただきたい。

A4-2材質は分からないですが、それぞれに適したフィルムを用いている。

Q4-3ロール品のエージレスで使用残が出た時の保存方法と再利用法を教えていただきたい。

A4-3エージレスの取り扱いに従ってください。脱気後、保管していただくなど製品によって細かい指示があるので参考にしていただきたい。

Q4-4エージレスの捨て方やリサイクル方法について教えていただきたい。

A4-4再利用は難しい。廃棄方法としては燃えるゴミとして扱うことを想定している。

Q4-5カラシレンコン事件はエージレスを用いれば防ぐことができたとお考えでしょうか。

A4-5食中毒が起きる可能性がある食品には使わないようにしている。基本的にはお客様で対策していただく。エージレスはあくまでも風味保持の目的で使用いただくことが良いと考えている。

(更新:2025.2.22)

» このページのTOPへ