食品の微生物試験法の現状と今後の展開
五十君靜信
(特定非営利活動法人食の安全を確保するための微生物検査協議会 副理事長)
2011年10月1日に施行された生食用牛肉の規格基準は、コーデックス委員会において2007年に策定されたリスク管理のための微生物規格基準に関するガイドラインに取り上げられた数的指標(Metrics)の考え方にしたがって検討された初めての規格基準である。この基準では、微生物学的基準(MC)として、本格的なサンプリングプランが採用されている。用いる試験法はISO法(コーデックスのスタンダード)で腸内細菌科菌群試験法が採用された。
今回の規格基準策定により、我が国の食品における微生物の規格基準作りの今後の方向性は明確に示されたと言える。その基準に取り上げられる微生物試験法はコーデックスのガイドラインの数的指標の考え方に対応した試験法であることが求められる。コーデックスでは、MCに適用できる試験法は、ISO法を標準法としており、科学的に妥当性確認が行われている試験法でなければならないとされている。我が国の食品における微生物試験法は、今後、ISO法に準拠するか、国際的に妥当性確認が行われていると認知されるような妥当性確認の行われた試験法を整備してゆくことが必須である。これまで国内では、このような対応が遅れており、妥当性確認という考え方や国際協調性を考慮した試験法の整備を早急に進めてゆかなければならないのが現状である。現在、国立医薬品食品衛生研究所の標準法検討委員会が中心となり、微生物試験法における妥当性確認の考え方の普及並びに国際的に認められる妥当性確認が行われた標準試験法の整備が進められているところである。
一方、食品衛生検査指針微生物編(以下、検査指針)改訂版の編集が進められている。検査指針は、行政から出される公定法と並び、国内で食品の微生物検査を実施するにあたり、よりどころとなる試験法を示した書籍として、広く認知され活用されてきた。検査指針で示された試験法は、公定法とほぼ同等な信頼度で食品における微生物検査に利用されているのが実状であり、この書籍の記載内容は科学的であると同時に食品衛生行政に資するような配慮が求められている。検査指針の編集方針は、我が国の食品における微生物検査の方向性を示すことになり大変重要である。この検査指針改訂版には、妥当性確認という考え方が大幅に取り入れられる予定である。
厚生労働省の基準審査課では、標準法検討委員会による検討が終了した標準試験法を通知法にするための検討に入っている。現在公定法への移行作業が開始されているのは、サルモネラ属菌試験法(NIHSJ-01)、カンピロバクター試験法(NIHSJ-02)、黄色ブドウ球菌試験法(NIHSJ-03)、リステリア・モノサイトゲネス試験法(NIHSJ-08)の4つである。サルモネラ属菌試験法については、NIHSJ法が硫化水素非産生のものも検査対象としていることから、規格基準に示されている性状との調整が必要である。リステリアについては、食品安全委員会のリスク評価がほぼ終了したことから、リステリアの基準の策定に合わせて通知されることになりそうである。カンピロバクターと黄色ブドウ球菌については、確認が終了したところで、通知法として示される予定である。