定期通信 第38号

定期通信第38号は、平成30年度講演会での2名の先生のご講演のうち、畝山先生のご講演内容を聴講録としてまとめたものを掲載しています。講演の抄録や資料、スライドハンドアウトなどを収めた会誌「食の安全と微生物検査」第8巻第1号とともに、是非、ご覧ください。

平成30年度 講演会 聴講記録 : 講演1
安全な食品とは何か? ~リスクのものさしで考える~
畝山 智香子 (国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部長)


食品とは、人間が生きるための栄養やエネルギー源として食べてきた有害影響がすぐに表れてこない、未知の化学物質のかたまりであり、長期的な安全性については基本的には確認されていないものである。このような食品に対してリスクアナリシスというツールで安全性を確保している。

そもそも“リスク”とは「ハザード×暴露量」であらわされ、数値化でき、定量と比較を行うことが重要なものである。このリスクを一定のレベル以下に維持することを“リスク管理”と呼び、主に暴露量を減らすことが重要となる。食品安全(Food Safety)とは、意図された用途で作ったり、食べたりした場合に、その食品が消費者へ害を与えないという保証のことであり、リスクが許容できる程度に低い状態を指し、決してリスクがゼロという意味ではなく、不適切な使用によっては危害が起こる可能性はある。

一般的に、食品には様々なものが含まれており、その中でも意図的に含まれるものと、非意図的なものに分けることができる。意図的なもののなかには、食品添加物や残留農薬・動物用医薬品などが挙げられるが、これらは食品中の濃度などがコントロールされており実質的にはゼロリスクで管理されている。

一方、食品成分に元々含まれるアルカロイドや生理活性物質、病原微生物、環境中の重金属やカビ毒等の汚染物質などの非意図的に含まれてしまうものに関しては、汚染実態に即した現実的な管理目標を設定して管理を行っている。


意図的に使われる食品添加物や残留農薬などは管理するうえで、1日許容摂取量:“ADI”を設定している。ADIは毒性試験から導かれた“無毒性量”の100分の1(“安全係数”100)を用いて設定している。残留農薬等には“基準値”があるが、この値はADIよりもかなり低い数値に定められているため、基準値を超える残留農薬が検出された食品の中には安全性には全く問題ないものも多く含まれる。

汚染物質の場合、たとえばカドミウムでは“耐容週間摂取量(TWI)”として、推定している。この値を基にコメのカドミウムの基準値の設定などを行っている。土壌中のカドミウムは地理的に汚染濃度に違いが認められるため、同じ地域の食品だけを摂取しているとリスクが高くなる。また、無機ヒ素はコメや水産物に多く含まれ、日本人の暴露量の多い物質である。

特にひじきなどではヒ素は多く含まれるため、調理時の下洗いやあく抜き工程でヒ素の低減化がなされていたが、近年、時短料理として洗わずにひじきご飯を作るレシピなどが紹介されていて、ヒ素の暴露を考えるとリスクが高い。欧米では子供にコメ中心の食事にしないように助言している。玉ねぎやジャガイモは動物での中毒事例や強い毒性などがあり、食品添加物や残留農薬と同様の扱いをして基準値を設定するとなると、ほんの少量で基準値をオーバーしてしまう。

健康食品は原材料が食品等であっても濃縮物、抽出物、乾燥粉末等に加工されており、食品としての普通の摂取方法と異なり、また長期間・大量摂取しやすい傾向にあるためリスクが高いと考えられる。現実に、死亡者を含む健康被害が数多く報告されている。食品衛生法改正案でも健康食品等による健康被害防止対策について検討を始めている。

リスクを定量比較するための方法として、“MOE(暴露マージン)”や“DALY(障害調整余命年数)”などが利用できる。このような“ものさし”を使うことによってリスクの大きさを並べてみると残留農薬や食品添加物よりも、一般の食品の方がはるかに大きなリスクを持っていることがわかる。食品にはもともと膨大で多様なリスクが存在している。

したがって、健康と安全のためには「多様な食品からなる、バランスのとれた食生活」が、世界中の食品安全機関から薦められている。栄養のバランスを取るためにいろいろな食品を食べるということだけではなく、全ての食品には何らかのリスクがあるため、偏らないで摂取することがリスクの分散につながるのである。

以上

平成30年度 講演会 聴講記録 : 講演2
食品製造現場における適切な洗浄方法
福﨑 智司 ((三重大学大学院 生物資源学研究科 教授)


会誌「食の安全と微生物検査」第8巻第1号に収載されている抄録及びスライド資料でご覧ください。

 

(更新:2018.7.21)

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