定期通信 第7号

今回の定期通信では、2010年11月17日に中央区立日本橋公会堂で開催されました、平成22年度 第8回講演会での講演の概要をご紹介いたします。

講演I:
容器包装詰食品の微生物検査とクレーム事例(駒木 勝 先生)

講演II-1:
CODEXにおける食品中の微生物規格設定と適用に関するガイドラインの見直しについて(豊福 肇 先生)

講演II-2:
衛生指標菌試験法:わが国の公定法とISO法の比較から見えてきたもの(五十君 靜信 先生)

平成22年度 講演会 講演Ⅰ
容器包装詰食品の微生物検査とクレーム事例
駒木 勝 (社団法人 日本缶詰協会 常務理事 研究所長)

缶詰食品は加熱殺菌により貯蔵性が付与されています。したがって、これらの製品の微生物による安全性は、加熱殺菌条件(温度と時間)により左右されるといっても過言ではありません。従来から、密封容器詰殺菌食品はpH や水分活性(Aw)により、100℃以下の低温殺菌または100℃以上の加圧加熱殺菌が施されています。

我が国では、食品衛生法に基づく規格基準により、pHが4.6を超え、Awが0.94を超える製品で加圧加熱殺菌する場合、「120℃で4分間と同等以上の殺菌効果を有する加熱殺菌処理をすること」と定められています。 また、これら加圧加熱済み製品の微生物学的安全性を評価するための細菌試験が規定されています。

今回、密封容器詰殺菌食品の微生物検査について、製造現場では様々な事情により数多くの試験項目が多々課せられているため、効率的な微生物検査のあり方や試験方法等について提起したいと思います。

微生物検査の仕分け

加工食品を対象にした微生物試験には、カビ、酵母、一般細菌、大腸菌群、サルモネラ、黄色ブドウ球菌、リステリア、芽胞菌、セレウス菌、無菌試験等があります。これらの試験を全ての加工食品について実施する必要はありません。

例えば、一般的にAwが0.90以下のものに関しては、芽胞菌以外は発育しないといわれていますので、このような食品に対して芽胞菌以外の微生物試験は意味がありません。-18℃で流通する冷凍食品は大腸菌群が陰性であること、常温で流通する缶詰・レトルト食品は商業的無菌性(非冷蔵の通常の貯蔵・流通条件において食品中で発育する微生物が生存しない状態)が確保されていることが、微生物学的な安全性が担保されていると言えるのではないでしょうか。

容器包装詰加圧加熱殺菌食品の細菌試験について

缶詰、レトルト食品など常温で長期間流通、販売される容器包装詰加圧加熱殺菌食品には、その製品が商業的無菌性を確保しているか調べるため細菌検査法が規定されており、これは食品衛生法に基づく容器包装詰加圧加熱殺菌食品の規格基準として厚生省告示第17号で通知されたもので、この試験方法を「無菌試験」と呼称しています

容器包装詰低酸性食品の行政の取組みとその動向について

平成22年7月9日付けで、厚生労働省医薬局の担当課長名で各業界団体の長宛に「容器包装詰低酸性食品に関するボツリヌス食中毒対策について(調査依頼)」の通知がなされました。これは2年前の同通知に関する、その後の業界の取組みに対する報告の提示でした。

この通知が出された経緯は、ボツリヌス菌による事例が昭和59年に辛子レンコンによる食中毒にて死者11名、平成9年マレーシア産オイスターソースの気泡発生(A型ボツリヌス菌検出)、平成11年ハヤシライスの具(A型ボツリヌス菌)による食中毒患者が1名発生したためです。その後、平成14年度から16年度の3年間、厚生労働省科学研究班による「容器包装詰低酸性食品のボツリヌス菌に対するリスク評価」のなかで、ボツリヌス菌接種試験法の確立、市販の容器包装詰低酸性食品実態調査、市販の容器包装詰低酸性食品へのボツリヌス菌の接種試験が検討されました。

その結果、ボツリヌス食中毒を防止するために、(1)120℃、4分の加圧加熱殺菌、(2)10℃以下の冷蔵流通、(3)当該食品へのボツリヌス菌接種試験の実施という3つの対策が盛り込まれたものが先述の通知です。

最近の容器包装詰殺菌食品の微生物クレームについて

  • 100℃以下の加熱温度で処理される製品の耐熱性カビによる変敗事例(2事例)
  • 耐熱性カビによる膨張変敗例(3事例)
  • 麺つゆ、イチゴジャムから検出されたArthrinium属
  • みつ豆缶詰から検出されたClostridium.pasteurianum   などがあります。

(更新:2011.2.14)

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平成22年度 講演会 講演Ⅱ-1
CODEXにおける食品中の微生物規格設定と適用に関する
ガイドラインの見直しについて
豊福 肇 (国立保健医療科学院 研修企画部 第二室長)

「食品中の微生物規格設定及び適用のための原則」を改訂する新規作業が2010年のCodex総会で認められ、フィンランドと日本を共同議長国とする作業部会(2010年5月開催)が提示した「食品中の微生物基準の設定と適用に関する原則」の修正原案が2010年11月29日から12月3日に開催される第42回コーデックス食品衛生部会で議論されます。

見直しの背景

新しい微生物リスク管理に関する数的指標(食品安全目標(FSO)、達成目標(PO)、達成基準(PC))を設定することが可能となり、微生物リスク評価の結果と微生物規格(MC)を直接関連づけることができるようになりました。

また、MCは特定のロットの食品の適否を判断するだけでなく、HACCPの検証、環境モニタリング等幅広い目的で業界に適用されているという背景があります。そこで、1997年に策定されたこの原則を最新の科学的知見を基に、見直し作業を行うことになりました。

具体的な新しい数的指標

  • Appropriate Level of Protection 公衆衛生上の目標値 (ALOP)
    健康及び動植物衛生保護対策により達成され、その国が適正であると認めるレベルで通常10万人あたりの患者発生率などで表現。
    例)リステリア症の患者数を2010年までに0.25人/100000人/年までに抑える。
  • Food Safety Objective 摂食時の食品安全目標値 (FSO)
    摂食時点の食品中のハザードの汚染頻度と濃度で、その食品を摂食した結果としての健康被害がALOPを超えない最大値。
    例)リステリアは調理済み食品の摂食時に100cfu/gを超えないこと。
  • Performance Objective 達成目標値 (PO)
    FSO及び適用可能な場合にはALOPを満たすようにフードチェーンのそれぞれの段階で許容されるハザードの最大の汚染頻度、あるいは濃度。
  • Performance Criterion 達成規格 (PC)
    PO、あるいはFSOを満たすように、管理対策によって達成されるべき食品中のハザードの汚染頻度、あるいは濃度に与える影響。
    例)ボツリヌス菌を6対数個減らす(100万分の一にする)こと。

Microbiological Criterion 微生物規格 (MC)とは

  • 定義
    一定量の食品中の微生物(原虫含む)の検出または検出数、あるいは毒素または代謝産物の検出量を基に、食品あるいはロットの合否を規定する規格基準。
  • 目的
    特定のロットを受け入れるか拒否するかを判断する、HACCPシステムの遂行状況を検証する、食品事業者間で許容できる基準について情報を伝達する等。

MCと他の微生物リスク管理の数的指標との関係

政府機関がALOPを設定し、さらにフードチェーンのハザードのコントロールにおいて必要とされる厳しさの尺度としてFSOまたはPOを設定した場合、MCはFSOまたはPOを運用するために用いられるかもしれません。

特にALOP、FSO及びPOはこれらの数的指標の内容に関する健康上の懸念を示すためのみにセットされることとなります。また、食品事業者がPOを設定した場合、同様にMCは運用上の数的指標として選択されうるでしょう。


今後の作業部会での作業案として、衛生指標菌のためのMC設定、MCの設定及び統計的な検討を行うための一般的なプロセスの作成、MCの設定の実務的な例の作成、動物用飼料のMCをカバーするかどうかの検討、MCを適用する頻度等が現時点で挙げられています。


(更新:2011.2.14)

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平成22年度 講演会 講演Ⅱ-2
衛生指標菌試験法:わが国の公定法とISO法の比較から見えてきたもの
五十君 靜信 (国立医薬品食品衛生研究所 食品衛生管理部 第一室長)

はじめに

FAO/WHOやコーデックス委員会が連携し、食品における病原微生物のリスク評価が進み、科学的根拠に基づいた国際的な食品の微生物基準作りが進められていますが、コーデックス委員会では、試験法はISO法を基準としています。それに対し、わが国での食品微生物試験法は、公的な文章で示された公定法が基本となっています。

公定法である告示法や通知法は長期にわたり変更されていないものもあり、海外の標準的な試験法と試験結果の互換性などで問題が起こることもあります。また遺伝子や免疫学的手法を用いた迅速簡便法を早急に導入すべきだとの意見もあります。

このような状況を受けて、現在、食中毒起因細菌や衛生指標菌の試験法に関する関心が高まっています。今回、食品の微生物試験では最も日常的に用いられている衛生指標菌試験について公定法とそれに相当するISO法との比較を紹介いたします。

大腸菌群試験法

国内の試験法としては大腸菌群試験法があります。これに相当するISO法はISO4831:2006(MPN法)及びISO4832:2006(コロニー計数法)です。

  ISO4832:2006 国内の試験法
希釈液 緩衝ペプトン水(BPW) リン酸緩衝希釈水(PB)
培地の種類 VRB寒天 デソキシコーレイト寒天
培養温度と時間 37℃、24±2時間 35℃、20±2時間
確認試験 非典型集落のみ
BGLBガス産生の確認
EMB、LB、グラム染色で確認
日数 (開始日含む) 最短2日、最長3日 最短2日、最長5日
菌数の算定方法 2段階の希釈倍率の
集落数から算定
30~300個の集落が
出現した希釈倍率の
集落数から算定

大腸菌試験法

国内の試験法としては、糞便系大腸菌群と大腸菌に関する試験法があります。糞便系大腸菌群とは、大腸菌群の中で44.5℃で発育して乳糖を分解し、ガスを産生するものをいいます。これに相当するISO法はISO7251:2005(食品及び動物飼料MPN法)、ISO11866-1:2005(乳及び乳製品MPN法)及びISO11866-2:2005(乳及び乳製品コロニー計数法)です。

  ISO7251:2005 国内の試験法
希釈液 緩衝ペプトン水(BPW) リン酸緩衝希釈水(PB)
培地の種類 ラウリル硫酸ブイヨン(LTB)、
ECブイヨン
ECブイヨン
培養温度と時間 LTB:37℃、24±2~48±2時間
EC:44±0.5℃、24±2~48±2時間
44.5±0.2℃、24±2時間
確認試験 ペプトン水に継代培養後、
インドール試験で確認
EMB、LB、グラム染色で確認
日数 (開始日含む) 最短3日、最長7日 最短2日、最長5日

一般生菌数

国内の試験法による一般細菌数は、試料と標準寒天培地を混釈し好気的条件下で35℃±1℃で48±3時間培養後のコロニー数から算定され、標準平板菌数(SPC)ともいわれます。これに相当するISO法は好気性中温性細菌の計数及び検出ISO4833:2003です。

  ISO4833:2003 国内の試験法
培地の種類 PCA 標準寒天培地
培養温度と時間 30℃±1℃、72時間 35℃±1℃、48±3時間
確認試験 ペプトン水に継代培養後、
インドール試験で確認
EMB、LB、グラム染色で確認
平板あたりの計数 300個以下 30~300個

国内試験法とISO法の検討

大腸菌群に関しては、デソキシコーレイト寒天培地上に形成される集落とVRB寒天培地上の集落でおよそ9割の食品においてほぼ同様な結果が得られていますが、残りは異なる結果となっています。また、大腸菌、推定大腸菌、大腸菌群、糞便系大腸菌群などそれぞれ指標としている集団が異なる為、それぞれを同列な試験法として比較してもあまり意味がないと思われます。

衛生指標菌の試験法については、国内の試験法は長期にわたり評価に用いられた実績があり大変完成度の高い方法ではありますが、今後は国内の微生物基準の検討が行われ、その結果コーデックス基準を導入することになれば、試験法もISO法へと移行してゆくことになると思われます。


(更新:2011.2.17)

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