定期通信 第28号

定期通信第28号は、平成27年度研修会 聴講記録です。是非ご覧ください。

平成27年度 研修会 聴講記録:研修1
スプラウト生産における衛生管理指針について
入江 真理 (農林水産省 消費・安全局 農産安全管理課 課長補佐)

1. 農林水産省の取り組み

農林水産省は食品中の有害化学物質や有害微生物についてリスク管理に取り組んでいる。農産物の衛生管理に関しては平成23年に「栽培から出荷までの野菜の衛生管理指針」、平成27年9月には「スプラウト生産における衛生管理指針」を作成した。

図表:スプラウト生産における衛生管理指針について01

2. スプラウトに関する情報

スプラウトは主に穀類、豆類、および野菜の種子を人為的に発芽させた新芽で、発芽した芽と茎を食用とするものだが、「スプラウト生産における衛生管理指針」では、このスプラウトのうち、箱等の容器に種子を播種し、発芽後に緑化させるもので、かいわれ大根のように根を下向き、葉は上向きにそろえて生産されるもの、と適用範囲を定め、もやし等は除外している。

かいわれ大根の生産事業者は、平成24年当時に日本全国で36社、44農場あるとされ、そのうち25社が日本スプラウト協会の会員である。年間生産量は農林水産省の生産状況調査では約2,800トンと報告されているが、実際は5,000~6,000トン程度は生産されていると考えられる。

スプラウトの摂食による食中毒としては、2011年ドイツやフランスで起きた病原性大腸菌O104に汚染されたマメ科のFenugreekによる大規模な食中毒事件例(患者4,173名、死者49名)や、2014年アメリカのサルモネラ・エンテリティディスやリステリア・モノサイトゲネスに汚染されたBeanによる食中毒などが挙げられる。わが国でも食中毒事例ではないが、厚生労働省の汚染実態調査において、平成24年にサルモネラが検出されている。

図表:スプラウト生産における衛生管理指針について02

3. 衛生管理指針

本年9月に作成したスプラウト生産における衛生管理指針は、コーデックスの規範を参考に、スプラウト生産に関わる管理者や作業者を対象として生産施設や資材および生産過程の管理対策をまとめたものである。平成23、24年度に農林水産省が実施したスプラウト生産施設での実態調査の結果から科学的根拠に基づいた微生物調査結果と生産実態をもとに作成している。

図表:スプラウト生産における衛生管理指針について03

スプラウト生産における衛生管理指針の内容は以下の通り

Ⅰ生産段階でなぜ衛生管理をしなければならないのでしょうか
Ⅱスプラウトの生産施設の衛生管理
1 適用範囲
2 定義
3 管理体制の整備
4 施設等の管理
5 施設で使用する水・種子・資材の管理
6 作業従事者等の健康及び衛生管理
7 微生物検査
8 生産過程の管理
コラム
参考 殺菌駅・消毒液の調製の計算方法
別表1 スプラウト生産施設で作成すべきマニュアル等の記載内容の例
別表2 スプラウト生産施設で記録・保管すべき情報・事項の例
付録 衛生管理チェックシート

はじめに、衛生管理の重要性についてのわかりやすい解説から始まり、スプラウト生産施設の衛生管理について、7つのコラムで補足しつつ具体的な取組みを示している。

スプラウト生産施設の衛生管理の項目では過去の実態調査で明らかとなった問題点を踏まえ、作業手順の文書化や作業日誌などの記録、作業従事者の意識の向上、菌をつけない管理としての清掃・消毒など施設の管理、菌を持ち込まないための衛生管理区域の設定や手指や靴底等の消毒、菌を殺す管理としての種子の洗浄・殺菌について詳しく解説している。また、種子やスプラウト製品、使用水の微生物検査について、必要な検査項目や検査結果の取り扱いなどを解説している。最後に生産過程における管理として、スプラウトを生産する各過程における衛生管理のポイントを挙げている。事業所ごとに作業工程や施設が異なるので、本衛生管理指針をもとにして、各自の施設にあったマニュアルやチェックシートを作成していただきたい。
なお、本衛生管理指針は、科学的知見の蓄積状況に応じて内容を見直していく予定である。

(更新:2016.1.20)

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平成27年度 研修会 聴講記録:研修2-1
標準法から通知法に採用されたサルモネラ試験法解説
泉谷 秀昌 (国立感染症研究所 細菌第一部 第二室長)

通知について

平成27年7月29日付で発出された「食品、添加物等の規格基準に定めるサルモネラ属菌及び黄色ブドウ球菌の試験法の改正について」(食安発0729第4号)において、サルモネラ属菌の試験法が改正された。本通知は平成28年1月29日から適用される。

図表:標準法から通知法に採用されたサルモネラ試験法解説01

図表:標準法から通知法に採用されたサルモネラ試験法解説02

本改正試験法は、ISO法など国際的な手法との整合性を図るべく、国立医薬品食品衛生研究所において検討されてきたNIHSJ法(NIHSJ-01-ST4)を基に作成されている。NIHSJ法は、硫化水素産生性の有無に係らずサルモネラ属菌を分離することを考慮し、なおかつISO法と同等性を有する試験法である。

  1. 食肉製品 平成5年3月17日付衛乳第54号 → 本試験法
  2. 殺菌液卵 平成10年11月25日付生衛発第1674号 → 衛乳第54号に示す試験法(本試験法)

図表:標準法から通知法に採用されたサルモネラ試験法解説03

試験法の概要

試験試料25gをストマッキング袋等に無菌的にとりわけ、緩衝ペプトン水(ISO処方)225mlを加え、ストマッカーなどで均質化し培養する。その培養液の一部をRV培地とTT培地で選択増菌培養後、2種類の分離寒天培地(硫化水素産生性で検出する培地と硫化水素産生性に関係なくサルモネラ属菌を検出する培地、それぞれ1種類)に塗抹、培養し、疑わしい集落に形成を観察する。

サルモネラ属菌と疑われる集落3個をTSI寒天培地及びLIM培地に接種し、生化学的性状の確認を行う。さらに、抗O血清による凝集反応によりO抗原の血清型別を実施してサルモネラ属菌と確定する。

サルモネラ属菌の種類と生化学的性状について

サルモネラはSalmonella entericaS.bongori (Ⅴ)の2菌種から成る。前者は6つの亜種enterica (Ⅰ)、 salamae (Ⅱ)、 arizonae (Ⅲa)、 diarizonae (Ⅲb)、 houtenae (Ⅳ)、及びindica (Ⅵ)から成る。このうち、亜種arizonaediarizonae及びS.bongoriがONPG試験陽性となる。また、亜種salamaearizonaediarizonaeがマロン酸陽性となる。

サルモネラはまた、血清型による型別で2,500種類以上の血清型から成る。O抗原は2007年版の抗原構造表でO67まである。これらの中には市販の抗O血清には含まれないものもあり、サルモネラ属菌であっても抗O血清に凝集しない場合もある。血清型の中にはCholeraesuisなど、硫化水素産生性などに関して例外性状を示す血清型別も存在する。

これまでの記載で「陽性」もしくは「陰性」とあるものは一般的に90%以上の確率(菌株)で陽性もしくは陰性を指すものである。このうち、オキシダーゼ試験、ブドウ糖からの酸産生、VP試験、インドール試験などは、ほぼ100%近くが陰性もしくは陽性となるが、本改正試験法において硫化水素非産生の株を考慮しているのと同様に、他の生化学的性状試験でも例外性状を示す菌株も存在する。

サルモネラ属菌の確認試験(TSI培地、LIM培地)での定型的な性状は硫化水素産生、ブドウ糖からのガスと酸の産生、乳糖及び白糖からの酸産生が陰性、リジンデカルボキシラーゼ陽性、運動性陽性、インドール陰性となるが、本改正試験法では、これまでサルモネラ属菌分離の指標としてきた硫化水素産生性によらない方法であるため、例外性状を示す菌株も分離されることを考慮する必要がある。そのため、追加試験(市販の同定キットも可能)を行うが、それでも、試験結果の判定が困難な場合もあるので、必要に応じて関連機関(国立医薬品食品衛生研究所又は国立感染症研究所)に紹介することが望ましい。

結果の記載について

サルモネラ属菌陽性の際は「陽性/25g」とし、O群またはO群型別不能まで記載する。
非定型的サルモネラ属菌の際も、同様にO群まで記載するとともに「どの性状が異なっていたか」を記入する。

図表:標準法から通知法に採用されたサルモネラ試験法解説04

(更新:2016.1.20)

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平成27年度 研修会 聴講記録:研修2-2
標準法から通知法に採用された黄色ブドウ球菌試験法解説
五十君 靜信 (国立医薬品食品衛生研究所 食品衛生管理部長)

黄色ブドウ球菌試験法の改正について

平成27年7月29日付けで発出された「食品、添加物等の規格基準に定めるサルモネラ属菌及び黄色ブドウ球菌の試験法改正について」(食安発0729第4号)において、黄色ブドウ球菌の試験法が改正された。従前の方法と比較すると大きな変更は無いが、選択分離培地を追加したところが変更点となっている。本通知により、平成28年1月29日より国際整合性のとれた試験法が導入されることとなる。

試験法の概要

試験法が変更されたが、規格基準についての変更は無い。黄色ブドウ球菌試験法と名前がついているものの、厳密にはコアグラーゼ産生ブドウ球菌として同定する試験法である。これまで選択分離培地として3%卵黄加マンニット食塩寒天培地が使用されていたが、損傷菌対応を考慮してBaird-Parker寒天培地(BP寒天培地)を導入した。BP寒天培地の代替えとして卵黄加マンニット食塩寒天培地を選択することも可能な試験法となっている。

BP寒天培地は損傷菌対応のため、高濃度食塩によらない方法で選択性をもたせ、ピルビン酸ナトリウムがが添加されている。BP寒天培地上の黄色ブドウ球菌は、周囲に透明帯が存在する、黒又は灰色で、光沢のある隆起した円形集落を形成する。乳製品、エビ類、内臓肉の試験では、非定型集落が出現することが多いので注意が必要である。またProteus属菌が黒色集落を形成することがあるが、こちらは透明帯とコアグラーゼ産生性を確認することで鑑別可能である。なおコアグラーゼ試験は、TSA等の非選択培地で純培養してから供試する必要がある。

スライド:標準法から通知法に採用された黄色ブドウ球菌試験法解説01

スライド:標準法から通知法に採用された黄色ブドウ球菌試験法解説02

スライド:標準法から通知法に採用された黄色ブドウ球菌試験法解説03


(更新:2016.1.20)

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