定期通信第39号は、日本食品分析センター微生物部の齋藤明美先生による、「試験所の能力をチェックするための技能試験」を掲載しました。是非、ご覧ください。
試験所の能力をチェックするための技能試験
齋藤 明美 (一般財団法人日本食品分析センター 微生物部 微生物試験課)
食品の品質,安全性を確保するために,多くの食品企業や分析機関などで微生物試験が実施されています。食品の国際的な流通に伴い,試験データの信頼性が問われている中で,試験所では試験の品質を確保するために様々な取り組みが行われています。
試験の品質を確認するための手段の一つとして,技能試験があります。微生物試験に関する技能試験は英国食料環境研究庁(Fera)をはじめ,国内でも複数の機関が提供しています。一般財団法人日本食品分析センターでは2010年から食品企業を対象とした技能試験(微生物コース)の提供を開始いたしました。
年々,参加試験所は増加し続け,多くの試験所が試験の品質の保証に積極的に取り組んでいる状況です。今後,HACCPの制度化に伴い,食品製造における工程管理のために行われる微生物試験の品質も一層重要となると思われます。技能試験をより理解していただくために,当センターが提供している技能試験(微生物コース)の概要なども含め紹介いたします。
1. 技能試験とは
技能試験に関する国際規格ISO/IEC 17043:2010“Conformity assessment-General requirements for proficiency
testing”では,技能試験を「試験所間比較による,事前に決めた基準に照らしての参加者のパフォーマンスの評価」と定義しています。すなわち,技能試験とは「他の試験所の試験結果と比較することによって,客観的に自身(当該試験所)の能力を評価すること」と言い表すことができます。
この「試験所の能力の評価」は最も重要な目的の一つですが,試験所が一貫して信頼性のある試験結果を提供していることを確認するには,1回きりではなく継続して技能試験に参加し,「試験所の能力を継続的に監視」する必要があります。
また,「試験所における問題点の特定及び改善処置の開始」も重要な目的の一つです。評価結果が不満足となった場合,根本的な原因を調査し,改善につなげることにより試験所の弱点を補強し,能力の向上を図ることが重要です。
2. 技能試験の選定
技能試験は提供する機関(主催者)ごとに特色があり,「食品衛生外部精度管理調査」,「精度管理サーベイ」など,呼び方も様々です。参加費用,試験品目と試験項目のラインナップ,試験結果の評価方法など,詳細は各主催者のホームページなどにより確認できます。表‐1に微生物試験の技能試験を提供している主催者の一例を示しました。
試験項目としては,ゼラチン基材の一般細菌数,麩のカビ数測定などの「定量試験」並びに大腸菌群,黄色ブドウ球菌を対象とした「定量試験」及び「定性試験」など,その設定は主催者により異なります。日々の試験検査内容に即した技能試験を選定することが大切です。
3. 技能試験の活用
参加者の試験結果は主催者によって解析,評価されます。一般生菌数等の定量試験では,試験結果を統計的手法によって評価します。参加者の試験結果からzスコアを算出して良否を評価する方法が一般的に採用されています。定性試験では対象となる微生物の有無を正しく報告できたかが試験結果の良否の評価となります。試験結果報告書には参加者の評価結果が掲載されますが,参加者を試験所番号などにより記号化して表記されますので,参加者の名前が公開される心配はありません。
なお,報告書には技能試験の結果が不満足と評価された要因に関して考察を含む場合があります。評価結果の良否に拘らず考察を参考にして,試験操作の手順,試験施設の維持管理,機器・試薬の管理,試験結果の確認・採用,教育訓練等,を再点検し,見直しを行い,改善につなげることが重要となります。また,一般に,参加者が使用した試験方法に関する情報が記載されています。評価結果と試験方法との相関,どのような方法が多く用いられているのか,などを読み取ることができ,有効に活用できます。
4. 一般財団法人日本食品分析センターが提供する技能試験(微生物試験コース)
技能試験の具体的な内容について,当センターが提供する技能試験を例にご紹介します。
4.1 技能試験の特徴
長年の分析試験の経験と検討試験をもとに実施しており,以下を特徴としています。
① 試料は実際の食品を用いて調製し,食品企業の試験所の日常の試験手順で参加できます。
② 試験項目は,定量試験(一般生菌数)と定性試験(大腸菌群及び黄色ブドウ球菌等)の組み合わせとしています。
③ 定量試験は,菌数レベルの異なる2種類の試料を用意しています。
異なる菌数レベルの試験結果の評価から,不満足となった操作手順の要因をより的確に考察できます。
④ 定性試験では,「対象菌を接種した試料」と「対象菌の疑似菌を接種した試料」を用意しています。
そのため,対象菌を適切に鑑別する技能を確認することができます。
⑤ 参加者全体の結果の考察を参考に,検査の重要なポイントを確認できます。
4.2 技能試験試料の概要
技能試験の試料は,「適切であること」が大前提となります。ISO/IEC 17043では,「適切な技能試験用試料の調製」を重視しており,試料調製には常に細心の注意を払い,試料の均一性,安定性を確保しています。試料の設計においては,接種菌種,混合菌種とする場合の接種菌の組み合わせ及び菌数の割合(比),基材の種類などの適切性を十分検討しています。
調製した試料は均一性を確認した後に参加者に発送します。さらに,実施期間中の安定性を確認し,均一性,安定性試験結果を技能試験報告書に記載しています。過去に実施した技能試験について,試料,試験項目,接種菌,均一性試験,安定性試験結果の一例を表-2~6及び図-1に示しました。
4.3 技能試験試料の送付と技能試験の実施
調製した技能試験試料は,実施要領と結果報告書を同封して,冷凍宅配便にて参加者に送付します。実施要領に従い,日常実施している方法により試験を実施し,結果報告書を提出していただきます。
4.4 技能試験報告書
提出された試験結果を解析・評価し,技能試験報告書に評価方法,全参加者の試験結果及び評価結果を一覧表にして記載しています。また,参加者が試験に用いた試験方法,不満足評価となった要因の考察も紹介しています。
一般生菌数などの定量試験については,外れ値などによる結果の影響を最小化するために,現在ではJIS Z
8405:2008附属書Cに示されたロバストな解析方法により,zスコアを算出して評価しています。報告書には全参加者の結果の分布(図‐2)と,参加者のzスコア算出結果(図‐3)を掲載します。試験所のzスコアを確認することにより,全参加者の中の自身の試験所の位置を知ることができます。
大腸菌群,黄色ブドウ球菌などの定性試験では,対象菌を接種した試料は「陽性」,未接種の試料は「陰性」が評価基準ですが,対象菌と類似菌との識別ができたかどうかが確認できます。また,正しく報告した試験所の割合も記載しています。
不満足評価の要因の考察は試験所の問題点の特定のための参考とすることができます。
5. おわりに
「目には見えない試験の品質をどのように保証するのか」は,試験を実施する上で重要なテーマと言えます。ここでは技能試験を知っていただくために,当センターが提供する技能試験についてご紹介しました。技能試験は,試験所管理の「PDCAサイクル」におけるCheckに該当します。技能試験は主催者ごとに特徴がありますので,自社の目的に合った技能試験に参加し,その結果や参加プロセスを有効に活用し,試験所の能力向上に役立てていただきたいと思います。
以上