定期通信 第20号

定期通信第20号では、11月27日に開催された平成25年度の研修会の聴講録を収載しました。研修会では2名の演者の先生にご講演をいただいております。

講演の抄録、スライドハンドアウト、参考資料は「食の安全と微生物検査第3巻第3号」に特集として収載されています。会員の皆様には、参加された方は受付で配付させていただきましたが、欠席された方には事務局から送らせていただきました。特集をみながら定期通信をご覧いただきますと、ご理解いただき易いかと思います。会誌をお持ちでない方は、「発行された会誌の内容」に入手方法がございますので、是非ともご覧ください。

・研修1:新たな標準試験法の紹介3 リステリア試験法の国際ハーモナイゼーション(岡田 由美子 先生)

・研修2:新たな標準試験法の紹介4 サルモネラ(田口 真澄 先生)

研修1
新たな標準試験法の紹介3 リステリア試験法の国際ハーモナイゼーション
岡田 由美子(国立医薬品食品衛生研究所 食品衛生管理部 主任研究員)

リステリア症

リステリア属菌はグラム陽性無芽胞桿菌で現在10菌種(*1)が報告されているが、通常ヒトに対する病原性を示すのはListeria monocytogenes(以下 リステリア)のみとされている。

*1:リステリア属菌 10菌種
*1:リステリア属菌 10菌種

リステリアは人獣共通感染症原因菌であり、土壌、河川水及び動物の腸内など、自然界に広く分布している。0℃を含む低温下での増殖能を有し、12%食塩存在下でも増殖可能な菌である。そのため食品の一次汚染や、製造工程での二次汚染、低温保存中の増殖を制御することは困難である。

リステリア汚染が高いとされる食品には生ハムやサラミソーセージをはじめとする非加熱食肉製品、未殺菌乳やそれを原料とするナチュラルチーズなどの乳製品、魚介類、惣菜等のready-to-eat(RTE)食品が挙げられる。リステリアに汚染された食品等を通じて感染する食品媒介感染症がリステリア症であり、健康人が感染した場合は軽い感冒様症状や下痢を引き起こす(非侵襲型)。

ハイリスクグループである高齢者、乳幼児、妊婦及び免疫弱者が感染した場合には髄膜炎、流死産及び敗血症等の重篤な症状を引き起こし(侵襲型)、致死率が約25%にもなると報告されている。海外では欧米を中心として死者を伴う集団食中毒事例が多く報告(*2)されているが、国内の食中毒事例は2002年に発生したチーズを原因とする事例1件のみが確認されている。

*2:海外での主な集団事例
*2:海外での主な集団事例

しかし、厚生労働省院内感染対策サーベイランスによる推定値では人口10万人当たり1.06~1.57件の割合でリステリア症散発例が起こっていると推測される。このようなリステリア症を防ぐためには、低温増殖の可能性のある菌であるため冷蔵庫を過信せず、品質保持期限を守って喫食すること、加熱では速やかに死滅することから中心温度75℃で1分間などにより十分な加熱をして食べること、調理器具を介した交差汚染に注意すること、そしてハイリスクグループの人は特に食生活に注意することなどがあげられる。

リステリア規格基準

CODEXではリステリアに対する規格基準を設定するにあたり、微生物規格の必要な食品と必要のない食品に分け、さらに規格の必要な食品をリステリアが増殖するかどうかで異なる規格を設定した。食品中で増殖する場合は陰性/25g(n=5)、増殖しない場合は100CFU/g(n=5)となっている。

EUではこれに加えて乳幼児及び特殊医療目的のRTE食品の場合陰性/25g(n=10)と設定している。アメリカはゼロトレランスと定めている。国内では非加熱食肉製品及びナチュラルチーズからリステリアが分離された場合には初期品衛生法第6条違反として輸入等が禁止されることとなっているが、それ以外は明確な規格基準は存在しない。今後、Codex及び食品安全委員会等の情報をもとに規格基準を設定していく。

リステリアの標準検査法

現在は衛乳第169号に定められた方法が乳および乳製品の検査法として定められているが、国際的な試験法であるISO法と互換性のある検査法について、標準法検討委員会及びリステリア作業部会により検討を行った。

結論として

  • リステリアの定性、定量試験法であるISO11290-1(*3)及び-2(*4)に試験法を合流する。
  • ISO法では酵素基質培地としてALOA培地が定められているが同等の性能を持つCHROMagar Listeria(*5)を用いてもよい。
  • TSYEA培地に変え、TSA培地を用いてもよい。
  • 確認試験のCAMP試験は、簡易法であるβ-リジンディスク法(*6)で代替可能である。

また、リステリアの型別としては血清型別やPFGE法等の遺伝子型別を行うことができ、特にPFGE法はパルスネットによる情報の共有化が構築されている。

*3:ISO11290-1の概要
*3:ISO11290-1の概要

*4:ISO11290-2の概要
*4:ISO11290-2の概要

*5:ALOA寒天平板とCHROMagarListeria         *6:CAMP試験とβリジンディスク   
*5:ALOA寒天平板とCHROMagarListeria *6:CAMP試験とβリジンディスク


(更新:2013.12.19)

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研修2
新たな標準試験法の紹介4 サルモネラ
田口 真澄(大阪府立公衆衛生研究所 感染症部 細菌課 主任研究員)

サルモネラの血清型と試験法

サルモネラはグラム陰性の通性嫌気性の桿菌で、通常周毛によって運動し、ブドウ糖から酸およびガスを産生する。生化学的性状は亜種や血清型によって異なる事があるが、亜種Ⅰのサルモネラはおおむね、硫化水素(陽性)、インドール(陰性)、トリプトファンデアミナーゼ(陰性)、β-ガラクトシダーゼ(陰性)、VP反応(陰性)、リジンデカルボキシラーゼ(陽性)、オルニチンデカルボキシラーゼ(陽性)、アドニット(陰性)、白糖(陰性)である。サルモネラ属はO抗原、H抗原(鞭毛抗原で2相性)、Vi抗原(莢膜多糖体)によって各種の血清型に型別され、2007年時点で2,610種類の血清型があるが、人から分離されるサルモネラのほとんどは生物群Ⅰ(*1)である。サルモネラは、同じO抗原を持つ菌をひとつの群にまとめて、O2群、O4群などのO群に大別され、O群内ではそれぞれのO抗原因子およびH抗原の組み合わせによって血清型に細分される(Kauffmann-Whiteの抗原構造様式)。

*1:サルモネラ属の種と亜種の血清型数
*1:サルモネラ属の種と亜種の血清型数

サルモネラ試験法に関する通知は、非加熱食肉製品・特定加熱食肉製品・加熱食肉製品(加熱殺菌後容器包装)を対象とした試験法(平成5年3月)、生食用食肉を対象とした試験法(平成10年9月)、殺菌液卵(成分規格の個別規格)を対象とした試験法(平成10年11月)がある。そして、厚生労働省が実施している食品の食中毒菌汚染実態調査では、『サルモネラ属菌標準試験法(NIHSJ-01法)』が実施要項に記載されて通知されている。

海外のサルモネラ試験法は、FDA-BAMやISO6579:2002が示す方法などがある。FDA-BAMでは27種類の食品および関連物質について詳細に規定されている。ISO6579:2002では、対象とする試料は、食品、動物用飼料および食品製造や食品取扱施設の環境材料と広範囲に渡る。なおチフス菌、パラチフスA菌は全て取れる訳ではないとの但し書きがある。

新たな標準試験法『サルモネラ属菌標準試験法(NIHSJ-01-ST4法)』

本試験法(*2)は、『食品からの微生物標準試験法検討委員会』が作成したサルモネラ属菌標準試験法を基に作成された。前増菌培養では食品検体25gに、予め約37℃に保温しておいたBPW225mlを加えストマッカー処理後、培養する。選択増菌培養では予め42℃程度に保温しておいたRV培地およびTT培地に前増菌培養液を0.1ml、1.0ml加え培養(*3)する。選択分離培養では2種類の平板培地(硫化水素産生により判定する培地および硫化水素非産生菌であってもサルモネラと判定できる培地)に画線塗抹し、培養する。分離用平板培地上でのサルモネラ集落の色についてはあらかじめ検証後(*4)、試験に使用する必要がある。確認培養では各分離平板培地に発育した定型的な集落を3個ずつ釣菌して、TSI培地およびLIM培地に接種して培養する。血清学的試験は、O多価とO1多価血清での凝集試験を行い、さらにO群を決定する。

サルモネラ定性試験法に関する共同実験は2008年と2011年の2回実施しており、成績を統計学的に分析した結果、ISO6579:2002とNIHSJ-01法により得られる試験結果は同等と評価された。

*2:NIHSJ-01-ST4法
*2:NIHSJ-01-ST4法

*3:NIHSJ-01法の選択増菌培地
*3:NIHSJ-01法の選択増菌培地

*4:各種平板でのサルモネラのコロニーの色
*4:各種平板でのサルモネラのコロニーの色


(更新:2013.12.19)

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