定期通信 第1号

平成20年度からの事業として昨年の総会でお約束したものですが、作成に手間取りまして掲載が大変に遅くなりました。会員の皆様には深くお詫び申し上げます。今回は5月1日に開催されました研修会の要旨を質疑応答の一部も含めて座長が取りまとめたものをお届けします。是非、ご覧いただきましてご活用下さい。今後、発行頻度を高め、タイミングよく情報をご提供できますように努めてまいります。

第4回研修会
「改正大量調理施設衛生管理マニュアルとノロウイルス食中毒対策」のご報告

今年で第4回を迎えました、本協議会の研修会が5月1日、中央区立日本橋公会堂で開催されました。好天にも恵まれ、会員と一般参加者を合わせて約300名もの方々が熱心に講演を聴かれました。本協議会の賛助会員から7社の協力を得て展示も行い、参加者の皆様に試薬や器材などの最新情報をご提供することもできました。

研修会の内容は盛りだくさんですので、ここですべてをお伝えすることは出来ませんが、概要と質疑の部分を簡単にお知らせいたします。なお、研修会のテキストは少数ですが在庫がありますので、ご希望の方は本協議会事務局までお問合せ下さい。

事務局連絡先:Fax042-529-6256 mail:info@foodsafety-bikyo.com

<ご注意>この要旨とQ&Aは5月1日に開催した本協議会の研修会での講演内容をもとに、食の安全を確保するための微生物検査協議会が作成したものです。文責は本協議会にあり、演者にはありません。また、5月1日現在の状況で作成されたものですので、その後の変更等は反映されていませんのでご注意下さい。

【研修1】 大量調理施設衛生管理マニュアルの改正について
蟹江 誠 先生(厚生労働省医薬食品局食品安全部監視安全課課長補佐)

概要

  • 平成19年度の速報数字を交えた、最近8年間の食中毒の発生状況から、件数、患者数、死者数は横這いである。患者数500名以上の発生は年間数件で、19年度はノロウイルス1件、ウエルシュ2件、腸炎ビブリオ1件、サルモネラ1件であった。患者50名以上となると年間150件程度の発生が続いており、この規模の事件を減らすことが対策として重要である。
  • 主な大規模、広域食中毒事件を振り返ると、弁当や給食に関係するものが増えており、ノロウイルス関連が目立っている。腸炎ビブリオや鶏卵、鶏肉などの取扱い基準を示したことでそれらによる事件は減少しているが、ノロウイスルは増えており、マニュアルを改正するポイントとなっている。発生を減らすには食品事業者の自覚が重要であるが、生レバーを乳幼児に提供する焼肉店があるなど、現状はまだまだである。
  • 患者数でみると、細菌に由来するものが減り、ウイルスに由来するものが増えていることが顕著である。年間の定点あたりの患者数を見ると、11月から12月のピークが最近は目だって高くなっている。2008年は例年に比べて春先の患者数が多くなっている。
  • 平成9年に病原大腸菌食中毒対策として「大量調理施設衛生管理マニュアル」が作成された。同年、小型球形ウイルスが食中毒統計の対象に加えられた。翌年、生食用カキの表示基準を改正した。平成16年にノロウイルスに関するQ&Aを作成し、平成19年には「ノロウイルス食中毒対策について(提言)」を発表した。
  • 提言の主な内容としては、トイレ・調理施設の清掃と消毒の徹底、従事者の感染防止と専用トイレの使用・徹底した手洗い、管理者による従事者の健康状態の組織的かつ継続的な把握、感染性疾患に罹患している従事者の調理からの除外、調理前及び中の手洗いと手袋の活用、発症した従事者と同一感染機会のあった可能性のある従事者の陰性確認、嘔吐物の適切で迅速な処理、平常時に危機管理体制を整備すること、事業者が正しい知識を習得して従業員への衛生教育に努めること、などである。
  • パブリックコメントで多くの有益な意見をいただいたため、これらを整理して食中毒部会の委員に確認する段階にある。予定より多少遅れているが、連休明けの早い時期に改正されたマニュアルを公表できる見込である。

質疑応答

  • 1.トイレのウォシュレットは是(手を使わずに洗浄できる)か非(飛沫が飛び散る恐れ)か
  • 1.データがないので明確な回答はできかねます。
  • 2.ノロウイルスを検便検査するように改正されるというが、検査方法は規定されるのか・・・感度の低い方法はかえって危険ではないのか
  • 2.現在検討中である。感染研のデータはPCRである。健康管理のための検便については難しいところである。費用が高いので、頻回に実施することは出来ないであろう。安くて低感度の方法もあるが、検出感度を理解して上手に利用すれば良いのではないか。大量に排泄している者を除外するだけでも有効であろう。改正マニュアルにはO157とノロウイルスについて検便をするように示すことになろう。
  • 3.O157もノロウイルスも食中毒と感染症の両面があるので難しいのではないか
  • 3.対策と調査の両方で難しい問題を抱えている。現行マニュアルでも感染経路の調査と従事者対策の両方について組織的に対応することを求めている。

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【研修2】 ノロウイルス食中毒対策
林 志直 先生(東京都健康安全研究センター 微生物部 ウイルス研究科)

概要

  • 胃腸炎を惹起する主なウイルスを紹介し、その検査方法について特徴を説明した。培養ができないノロウイルスについては、核酸増幅法が基本であるが、変異株の問題もあるので電子顕微鏡による形態学的検査法も必要である。
  • 都内の小児科での定点調査では、2008年度はロタウイルスA群とC群の事件も多くなっている。
  • ノロウイルスの感染経路では、ヒト体内で増えたウイルスが下水処理から河川や海を経て汚染した2枚貝の摂取による事例は全体の1~2割に過ぎない。ヒトが食品を汚染する経路が主である。また、ヒトからヒトへの経路も増えている。健康者の調査から、不顕性感染をしている例が多数みられることから、注意が必要である。
  • 都内の病因物質別では2001年からノロウイルスが首位を占めている。ウイルスでの事例ではそのほとんどがノロウイルスであるが、ロタウイルス、サポウイルスなども散見されている。
  • 東京都では3年計画でノロウイスル対策緊急タスクフォースとして取組んでいるが、1年目を終えた段階での成果を示しておく。検査キットの比較なども実施しているが、新しいキットが続々と出ており、夏までには報告できる予定である。その情報は東京都健康安全研究センターのホームページで公開することになっている
  • ホテル宴会場での実例検討からみて、嘔吐物からのウイルスが長期に残存し、感染者を増やし、長期間に渡る発生を助長した疑いが濃い。
  • PCRによる検査とELISAによる検査が従業者などの実施された結果から、ELISAは感度が不十分であり、食品従事者の検査には不向きであろうと思われる。
  • 嘔吐物の飛沫がどの程度飛散するかの実験では、約2m先まで飛沫が確認されており、後始末は相当な広範囲について行う必要がある。
  • 次亜塩素酸が使用できない場合には加熱処理が考えられるが、ノロウイスルの抗原決定部位の蛋白は約72℃で抗原性を失うことが確認されたことから、安全的な余裕を見て85℃1分間は妥当な措置と考えられる。
  • 家庭用スチームアイロンを用いた実験では、薄手の生地では85℃を達成できるものの、絨毯などでは温度を上げることが出来なかった。布団乾燥機も同様に十分な温度を得ることは出来なかった。
  • 手洗いの方法についてグラブ・ジュース法で調べたが、よく泡立つトリクロサンを成分とするハンドソープでの成績が比較的良く、104程度の軽減効果がみられている。これでも不十分なため、洗浄時間の延長などを検討したが、効果は薄く、トリクロサンでの2度洗いが最も効果的であった。

質疑応答

  • 1.環境中でノロウイルスが生残している度合いとのその対策を知りたい
  • 1.ノロウイルスはヒトの中でしか増えない。トイレが最も重要であろう。トイレの清掃に集中することが第一ではなかろうか。専用トイレでは、拭き取り後に、衣服を直す前に手洗いをできる構造にしておくことが必要であろう。
  • 2.マニュアルに「望ましい」と記載されれば、事業者にとっては「やらねばならない」ということになってしまう。1件5,000円では実施できないので、安い方法はないのであろうか
  • 2.PCRは特許も絡んで高価である。国産技術のTRCやLAMPでも感度は十分であり、費用も比較的安いので、適切な検査機関を探すことで対応を考えてはどうか。 座長コメント:核酸増幅法での検査を5,000円で実施することは無理ではないかと思われる。
  • 3.嘔吐は勢いがあるので、ただ垂らしただけの実験よりもより遠くへ飛散すると考えられる。さらに、縦方向の飛散もあるはずである。部屋全体の消毒はどうするのか。舞い上がったウイルスはどれだけ待てば落ちてくるのか。エアコンの影響はどうなるのか
  • 3.嘔吐物の処理には処理セットを利用して、靴カバーなども使い、広範囲に次亜塩素酸で処理し、カバーすることが必要である。空中への飛散と対策については今年度の研究である程度明らかになる予定であるから、その結果を待ってもらいたい。
  • 4.次亜塩素酸が使用できない場合に、スチームヒーターは利用できるのか。
  • 4.厚手のものは難しい。外せるのであれば煮沸すれば効果がある。
  • 5.生食用野菜の洗浄はどうすればよいのか。
  • 5.理想的な洗浄方法はないと思われる。絶対に発生させたくないのであれば、生ものは一切提供しないことにするしかない。しかし、現実的ではない。本来、野菜にはノロウイルスの汚染はほとんどないのであるから、ヒトが汚染させない対策を講じることが重要であろう。野菜は十分に洗うことが一番である。
(更新:2008.8.3)

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