定期通信第54号は、2022年6月10日に中央区立日本橋公会堂で開催された講演会の聴講録です。講演の概要を簡潔に取りまとめ、数枚のスライドを挿入して、ご講演をいただきました福島和子先生、五十君靜信先生、諸藤圭先生に監修をしていただいたものです。会誌「食の安全と微生物検査」第12巻第1号の資料を合わせてご覧ください。講演会の記録をVimeoでアーカイブ配信しています。お知らせをご覧ください。
●講演1
HACCP制度化から1年 ~現状と今後の課題~(福島 和子 先生)
●講演2
食品関係事業者・消費者などが知っておくべきチーズにおけるリステリアの挙動(五十君 静信 先生)
●講演3
ISO17025シリーズ第2回 微生物試験のラボ管理実践編① -培地と機器の管理-(諸藤 圭 先生)
講演1
HACCP制度化から1年 ~現状と今後の課題~
福島 和子
厚生労働省 医薬・生活衛生局 食品監視安全課 HACCP推進室
厚生労働省 医薬・生活衛生局 食品監視安全課 HACCP推進室
1. HACCPに沿った衛生管理の施行について
これまでのHACCP取組み状況
国内のこれまでのHACCP取組みとしては、まず、平成7年5月に総合衛生管理製造過程(HACCP)の承認制度が創設され、次いで平成15年5月に更新制(3年ごと)が導入された。
その後、平成26年5月に「食品等事業者が実施すべき管理運営基準に関する指針(ガイドライン)」(通知)において、HACCPによる衛生管理の基準(選択制)が導入されたが、中小規模事業者への普及が進まず、また食を取り巻く環境変化や国際化等に対応するため、平成30年6月にHACCPに沿った衛生管理が制度化(令和2年6月施行)された。1年間の猶予期間を経て、令和3年6月1日に完全施行されており、原則すべての食品等事業者に、一般衛生管理に加え、HACCPに沿った衛生管理の実施を求めている。
HACCPに沿った衛生管理制度
HACCPに沿った衛生管理の基準を厚生労働省令に規定し、自治体等による運用を平準化している。具体的には、①一般的な衛生管理に関すること、②食品衛生上の危害の発生を防止するために特に重要な工程を管理するための取組み(コーデックスのHACCP7原則の内容と小規模営業者等への弾力的運用が含まれている)を規定している。
ここでのポイントは、決められた一律基準をただ遵守するのではなく、事業者自らが必要な措置を定め、遵守することを求めている点にある。公衆衛生上必要な措置の概要としては、衛生管理計画を作成し、従事者に対して内容の周知徹底を図ること、必要に応じて手順書を作成すること、実施状況を記録・保存すること、効果を定期的に検証し(振り返り)、必要に応じて内容を見直すこと、である。
HACCPに沿った衛生管理の制度化の全体像としては、大規模事業者やと畜場、食鳥処理場を対象とした「HACCPに基づく衛生管理」と小規模な営業者を対象とした「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」がある。「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」では各事業者団体が作成した手引書を活用して実施することで可としている。
手引書については、各食品等事業者団体が業種別手引書の案を作成し、厚生労働省に設置された技術検討会での内容確認を経た上で、厚生労働省のホームページで公表している。作成された手引書は俯瞰してみると構成や内容の統一取れていない部分もあるため、今後さらに見直ししていくことを検討している。
施行の際の留意事項としては、今回の制度化は手法(ソフト)に関するものであり、施設や設備(ハード)を求めるものではない、衛生管理の実施状況はこれまでと同様に食品衛生監視員が確認する、第三者認証の取得は義務ではない、罰則の適用はこれまでの制度から変更はない、となっている。
HACCPの制度化に関するQ&Aは厚生労働省のホームページに掲載している。監視指導等については、「食品衛生に関する監視指導の実施に関する方針」を一部改正し、HACCPに沿った衛生管理の監視指導のあり方の平準化を図っているほか、監視指導等の際に使用する食品衛生監視票の改訂も行っている。(監視票は厚生労働省のホームページに掲載されている。)
食品衛生監視指票は、点数も大切ではあるが、次回の立ち入りまでにどこを改善したら良いのかを事業者がよく理解するために活用していただくことを想定している。また改正食品衛生法の施行に伴い、現状の実態に即するように衛生管理等に関する通知を廃止または改正し、各種衛生規範についても手引書と内容が重複することから廃止している。
HACCPにかかる課題と今後の方向性
ACCPにかかる課題としては、①小規模事業者等への支援、②自治体の食品衛生監視員が的確に助言・指導、検証できるようにするための支援、③厚生労働科学研究等の成果の活用、④HACCPの実施・導入状況の実態把握、などがある。引き続き、食品等事業者自らがPDCAを回しながら自らの衛生管理計画をブラッシュアップできるよう、技術的な支援を行っていく。
なお、食品衛生法改正事項実態把握等事業における食品等事業者及び各都道府県等における取組みの実態把握等についての調査結果の概要についても紹介を行った。
2. 食品等のリコール公表情報について
食品等のリコール情報の報告制度
食品衛生法の改正に伴い、食品等のリコール情報の報告制度が創設された。リコール情報の報告・公表はこれまでも地方自治体の条例等に基づき行われていたが、行政によるリコール情報の確実な把握、的確な行政指導や消費者への情報提供につなげるために届出を義務付けることとした。報告対象は、食品衛生法に違反する食品または食品衛生法違反のおそれがある食品等となっており、当該食品が不特定かつ多数の者に対して販売されたものでなく、容易に回収できることが明らかな場合や消費者の飲食の用に供しないことが明らかな場合は報告対象外となっている。
届出から公表までの基本的な流れとしては、
①食品等の製造者や販売者が自主回収情報を都道府県に届け出る、
②都道府県から厚生労働省(食品表示法関係のリコールは消費者庁)に報告する、
③厚生労働省・消費者庁が消費者に向けに公表する、
という手順になっている。
リコール食品等のクラス分類と報告内容
リコール情報を報告する際には健康被害発生の可能性等を考慮し、重篤な健康被害または死亡の原因になる可能性が高い場合はCLASSⅠ、低い場合はCLASSⅡ、ほとんどない場合にはCLASSⅢとして報告される。このリコール情報に関しては厚生労働省のホームページ上から検索・閲覧できるようになっている。
令和3年6月1日から令和4年3月末時点のリコール事例として、食品衛生法関連では約500件が報告されており、理由としてはシール不良の恐れがあるものや回収命令該当食品の別ロット品で同様の汚染の恐れがあるものが52.4%、次いで残留農薬基準値超過や異物混入がそれぞれ11.8%、11.6%となっている。品目ごとの公表件数は、その他が68%を占めており、アイスミルクやナチュラルチーズ、しゅんぎくなど、対象品目は多岐に渡っている。
クラス分類ごとの公表件数としては、CLASSⅠが14%、CLASSⅡが61%、CLASSⅢが25%となっており、実際に健康被害が発生したものとしては2件(異物混入による口腔内の裂傷(1件)、風味異常による頭痛、ノドの痛み等(1件))が報告されている。
今後の課題として、各リコール報告内容から共通原因の有無を探知する分析が必要と考えている。これらの情報は食品事業者にとっても自社の衛生管理の向上を図る上で参考になると思われるので、役立てていただけることを期待している。
講演1 Q&A
Q1 保健所による指導研修に力を入れていただきたい。
A1 新型コロナ感染症対応を優先した実態もあるため、制度の周知や手引書を入手して可能な範囲で取組を始めるといったところから監視指導を行っていただくよう依頼している。徐々に対面での研修なども始まり、さらに取組が進むのではないかと考えている。
Q2 小規模事業者ではチェックリストの記載ばかりに集中しているところが多い。具体的な指導方法のアドバイスがあればお願いしたい。
A2手引書の様式では備考欄を多くとっているので、顧客からのクレームやちょっとした気づきでも良いので記載し、それらに対してどのように対応したのかなどを記載するようにしてもらうと良いと考えている。
Q3 クレームが減っている施設はどのような取り組みをしていると考えるか?
A3顧客や取引先からのクレームの原因究明を行い、改善することを地道に続けることが重要と考える。
Q4 HACCPの制度化と義務化と両方の表現を使用していたが、同義と考えても良いか?
A4同義ととらえていただいて差し支えない。
講演2
食品関係事業者・消費者などが知っておくべき
チーズにおけるリステリアの挙動
五十君 静信
東京農業大学 応用生物科学部 教授/食品安全研究センター長
東京農業大学 応用生物科学部 教授/食品安全研究センター長
リステリア モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes;LM)は、自然界に広く分布する菌であり、冷蔵庫でも増殖するという特徴を持つ。食中毒(リステリア症)の原因菌である。日本では食中毒統計に表れないが、2010年の推定では国内で年間200名ほどが罹患している。米国では患者数が多く死者も多いため、食品製造工程における環境モニタリングが積極的に実施されている。
2000~2012年までの、各国の集団食中毒事例では、ナチュラルチーズ(熟成後、加熱処理せずに喫食されるチーズ)を原因とする事例が多発しており、高い菌数のLMが分離されている。本講演では、市販されている様々な種類のナチュラルチーズがLMの増殖に及ぼす影響や、各チーズの菌叢、物理的特性などを評価することで、ナチュラルチーズ中の本菌の菌数挙動を明らかにし、増殖を制御する要因についての考察を紹介する。
実験方法と結果①
3タイプのチーズ中におけるLMの生育曲線の作成と菌数挙動
市販のチーズのうち、青カビタイプ(ダナブルー)、セミハードタイプ(ゴーダ)、白カビタイプ(カマンベール)の3種のチーズに本菌を接種して、4℃と10℃で保存し、各チーズにおける増殖挙動を調べた。菌数は青カビでは減少し、セミハードでは維持され、白カビでは明らかに増加した。
実験方法と結果②
各タイプのチーズから細菌を分離し、菌種を同定
各タイプのチーズから細菌を分離し、生化学性状および16S rDNA解析により分離菌株の菌種同定を行い、計9菌種の乳酸菌を分離した。
実験方法と結果③
LMに対する乳酸菌の増殖抑制効果の評価
本菌を接種した混釈穿孔培地に各チーズから分離した乳酸菌の培養液及び培養上清を添加し、阻止円の大きさから本菌に対する乳酸菌の増殖抑制効果を評価した。全サンプルにおいて阻止円が見られ、培養上清のナイシン換算のバクテリオシン量は生育曲線と相関がみられた。
実験方法と結果④
保存中の各チーズの水分活性(Aw)とpHの測定
実験期間中のAwの測定結果では、青カビタイプのAwはLMの生育限界値付近であり、他のタイプはいずれも増殖可能範囲であった。各タイプのチーズのpH測定では、いずれも本菌の増殖が可能な値であったが、青カビタイプとセミハードタイプは比較的低かった。白カビタイプは中性に近い値であった。
結果の考察
以上の実験結果から、チーズ中の乳酸菌はバクテリオシンなどを産生し、LMの増殖に影響を与えている可能性があると考えられる。今回のバクテリオシン活性の評価には、分離した菌株の培地における培養上清を用いているため、今後、チーズ中における活性評価のデータが必要である。
本菌の増加が見られなかったチーズでは、増殖における至適Aw、pHから外れていたことから、チーズのAwやpHは、本菌の増殖抑制に関与していることが明らかとなった。
講演2 Q&A
Q1青カビタイプのチーズに関しては、LMの危害をあまり考えなくてよいということか。
A1今回の実験では、市販のものから無差別に選んだチーズを使用しており、この結果だけをもって青カビタイプが安全とは言い切ることはできない。例えば、賞味期限切れが近いチーズは急激に菌が減少するが、賞味期限に余裕があるものは、減少が緩やかである。青カビタイプは白カビタイプと異なり、真菌自体がチーズの中まで浸透しており、水分活性が下がるため、菌数の増加にはつながらないと予想している。
Q2ナチュラルチーズの場合、経口摂取の安全基準として、1gあたりのLMが100 CFU以下、と考えてよいか。
A2経口摂取の段階で100 CFUという値に抑えられている限りは、リステリア症の発症リスクは低いと予測されている。ただし、白カビタイプのチーズにおいては、青カビタイプと異なり、保管時に容易に本菌が増殖してしまうので、喫食時には100 CFUという数値が必ずしも担保できない可能性がある。
Q3チーズのほか、生ハムやイクラといった高リスクと思われる食品の知見も集まっているのか。
A3生ハムについては、海外の事例では、汚染率は高いがLM増殖の可能性はほぼなく、リスクランキングではかなり低い位置にある。魚卵は凍結状態で保存され、増殖が明らかになる前(約10日以内)は低温管理で販売という方法をとっている。
Q4米国では環境モニタリングが厳しく要求されているようだが、具体的にはどこを調べればよいか。
A4製造工程のラインの汚染だけでなく、食品を扱う区域にある排水溝の中など、直接製品との接触のない製造環境のモニタリングが求められる状況と聞いている。
Q5排水溝のモニタリングはどのように行えばよいか。
A5海外の事例では、排水溝はスワブのふき取りを行い増菌培養で行っている。「リステリア モノサイトゲネス」を対象とする検査では非効率であるため、「リステリア属」を指標としてモニタリングしているようだ。
Q6食品に直接触れるスライサーのモニタリングは重要度が高いと思われる。米国ではCCPのポイントまでは難しくとも、それに準じた管理基準を厳しく要求されるようだが、その点についてはどうか。
A6LMの場合、原材料の汚染が最終段階まで残るというよりは、製造工程における機器類やラインのバイオフィルム形成が問題となっており、そこからの再汚染というケースが多い。そうした理由から、直接食品に触れる機器・器具のモニタリングが非常に重要視されていると考える。
Q7環境モニタリングのふき取り検査で、LMが検出された場合の対応についてガイドラインを示していただけないか。
A7「リステリア モノサイトゲネス」ではなく「リステリア属」を指標としてモニタリングを行い、菌が発見された場合は、その場を集中的に洗浄する。スチームのみでは難しく、洗剤と物理的な除去を組み合わせて、クリーンになるまで洗浄とモニタリングを繰り返すのが一般的である。
Q8今後、法改正により食品事業者にLMの検査が義務付けられる可能性はあるか
A8現時点では、国内でそのような議論はない。
Q9実験において、ゴルゴンゾーラのpHが高い点については、どのように解釈すべきか
A9菌を培養した際、アンモニアが生成されるため。pHが上昇することが知られている。
Q10日本では、食中毒統計においてリステリア症が報告されることはほとんどないが、実際は2010年の推計値で年間200名程度が発症している。一方、欧米の統計上では同症が多発している。これは集計方法に違いがあるのか。
A10日本では、散発的な発症事例はあるものの、集団感染事例としては食品を媒介としたリステリア症が確認されていないため、食中毒統計には掲載されない。海外では、食品が原因となる集団感染事例がたびたび報告されている。また、集計方法においては保健所から報告のあった実数を集計する日本に対し、海外では推定値を用いるなどの違いがある。
講演3
ISO17025シリーズ第2回 微生物試験のラボ管理実践編①
-培地と機器の管理-
諸藤 圭
一般財団法人日本食品分析センター 多摩研究所 微生物部 微生物研究課 課長
一般財団法人日本食品分析センター 多摩研究所 微生物部 微生物研究課 課長
1. はじめに
試験検査の信頼性を確保するために、ラボラトリをどのように管理すればよいのか。シリーズ第1回(森曜子先生による総論)に続き、第2回となる今回は微生物試験を実施するラボラトリにISO/ IEC17025を落とし込む際の培地及び機器に関する具体的な管理ポイントについて紹介する。
ISO/IEC 17025は試験機関だけでなく、校正機関に対する要求事項でもあるため、要求事項は概念的な内容にとどまり、実際の作業では具体的に何に取り組むか検討する必要がある。本講演では微生物試験分野における指針を示した JIS Q17025(ISO/IEC17025)の要求事項を微生物試験分野に合わせて詳細化し、微生物試験を実施する試験所が考慮すべき内容を示した文書「認定の基準」(JAB RL359:2020[公益財団法人日本適合性認定協会])を参考にポイントを紹介する。
2. 培地における管理ポイント
微生物試験での培地は微生物を人工的に増殖させるための材料である。本試験は検体から作成した検液中の微生物を培地で増殖させ、検出・計測する培養法が基本となり、培地の品質は試験結果に影響を及ぼす危険性がある。このことから、適切な管理により培地の品質を一定に維持しなければならない。
認定の基準では、①信頼のおける製品(培地)の使用、②培地保管条件の遵守、③適切な培地の調整(使用水の管理)、④調製済み培地の期限管理、が求められる。加えてISO/IEC 17025では設備を導入する前に規定された要求事項に適合しているかを検証する必要があることから、⑤使用前の培地の性能確認も必要である。
① 信頼のおける製品(培地)の使用
培地の規格書(構成成分・保管条件・使用期限・滅菌性)を確認するとともに、培地メーカーが品質保証体制を有しているかどうかを確認する。確認のポイントとしては、陽性、陰性対照を使用した生育試験の結果、物理的性状、バッチの識別および規格変更時の連絡体制などである。
② 培地保管条件の順守
メーカーから購入した培地は、指定された保管条件(冷蔵、遮光、防湿等)および定められた使用期限を遵守する。この期限はあくまでも未開封の状態の期限であるため、開封後の期限については、各ラボラトリで設定を行うが、培地の運用状況、性能評価結果などを参考にする。
③ 適切な培地の調整(使用水の管理)
培地の品質を一定に保つことは重要事項である。安定した品質を得るために、調製工程を安定化させる必要があり、ルールを定めて管理し、培地の品質のムラをできる限り取り除く。培地調製時のポイントは使用水(蒸留水、イオン交換水、逆浸透水など殺菌剤や生育阻害・抑制物質の入っていない水)と加熱方法(滅菌と保温の条件)であるため、この2点を厳重に管理することを求められる。
④ 調整済み培地の期限管理
保管条件(温度帯と使用期限)を設定して管理する。使用期限をどれくらいに設定するかは、開封後の培地期限と同様に、運用状況、性能評価結果などを参考に設定する。
⑤使用前の培地の性能確認
培地の性能確認は発育性能と鑑別性能に大別される。
●発育性能:目的とする微生物に対する発育支持性能と目的以外の微生物に対する発育阻止性能
●鑑別性能:目的とする微生物に対する生化学的反応の発現性能
性能の確認は、所定の微生物を接種し、回収率や生育性から確認するが、あくまでも保険にすぎない。一定の品質を有した培地を常に使用することがゴールであるため、調製や保管に関する管理を徹底することが重要である。
3. 機器における管理ポイント
微生物試験で使用する機器は理化学試験ほど多くないが、機器の異常が試験結果に影響する危険性があることには変わりない。そのため、機器の機能を維持管理し、適切に操作することが求められる。認定の基準での要求事項は保全、校正、性能に対してそれぞれ管理事項と頻度を定めて点検することが求められている。
保全 消毒・洗浄、損傷の検査について一般的な確認により、定期的に実施し、記録する。 校正・性能 適切な頻度を設定(経験や必要性、種類などに基づく)し、性能が許容範囲を外れる前に検証する。
認定の基準では、機器の点検を保全、校正、性能の3つの点検事項で区分しているが、点検の頻度で切り分けると、設置時の点検、日常点検、定期点検、異常時点検に区分できる。それぞれの点検のタイミングで、保全、校正、性能について何を点検すべきかをまとめておくと、点検ポイントをより明確にできる。
また、異常時点検では、機器の復旧だけでなく、その機器を使用していた試験品に対する措置を忘れてはならない。機器の管理では、機器を正しく操作することが前提となっている。操作も点検も試験者が行うことを考慮すると、試験者に対するトレーニングが重要となる。
4. まとめ
本講演では培地と機器について具体的な管理ポイントについて紹介した。その他の事項についてもISO/IEC 17025で求められている事項や認定の基準の記載内容などを通じて管理ポイントを設定することになる。
ラボラトリが適切な運営を行い、妥当な結果を出す能力があることを実証するために、自らの試験検査で何を管理すべきかを整理し、できるところから少しずつ積み上げていくことで、そのラボラトリに適した管理が可能となる。
講演3 Q&A
Q1培地調製する際の器具、試験に使用する器具も適切な水でリンスした方が良いのか。
A1使用した器具の洗浄は、洗剤を用いた洗浄、すすぎを行うが、微生物検査の観点からは洗剤の残留などを検証することは一般的ではないと考える。すすぎ水に泡残りが無いなどを確認すれば十分と思われる。
Q2ISO17025では検査結果の不確かさを見積もるが、定性試験ではどのように考えれば良いのか。
A2定性試験の場合、その特性上、陽性・陰性しかないため不確かさを見積もることは難しい。偽陽性、偽陰性になる条件を見積もることになると考えるが、実状として難しいと考える。
Q3培地を評価する際に標準菌株を使用するが、RMとCRMの使い分けはどのように考えれば良いのか。
A3評価する目的を考慮した上で、使用すれば良いと考える。
Q4恒温器の温度安定性について、データロガーを使用しない場合はどのように確認すれば良いのか。
A4使用する機器の安定性を確認することが前提となるが、頻度を高めて温度確認することになると考えるが、5分おきなどに測定することとなり実用的ではないと思われる。
Q5使用前の培地性能の確認で、試験の実施と同時にポジコン、ネガコン、ブランクサンプルの実施で十分なのか。
A5その考えで構わないが、目的をしっかり認識して実施することが現実的と考える。