定期通信 第15号

最近の我が国における細菌性赤痢と分離された赤痢菌について
太田 建爾 (特定非営利活動法人食の安全を確保するための微生物検査協議会 理事)


赤痢はかっては法定伝染病の一つとして患者を伝染病病院などに隔離し、治療するなど極めて重視された感染症であったが、1970年以降公衆衛生の普及、環境の整備などにより劇減した。現在では法が改正されたといえども、赤痢菌を原因とした赤痢は感染症法に基づき3類感染症として患者及び無症状病原体保菌者が届出対象の疾病として取り扱われている。また、1999年には食品衛生法でも本菌による食中毒事件の届出が義務付けられている。

日本における赤痢患者は、戦後一時期には年間数万名の患者発生があったが、1969年を最後に1万台を割るに至った。その後も減少は続き1976年以降2000年までは年間1,000名前後の患者が見られる程度になった。ここでは2002年から2011年の10年間に発生した患者数の推移および分離された菌の血清型等を概説する。

患者発生は表1に示すようにこの10年間で合計4,307名が届出された。この間最も多かったのは2002年で699名であり、その後減少傾向を示し、2009年には181名と200名を下回る届出であった。しかし、2010年及び2011年ではやや増加した。2011年は合計300名の届け出があったが、これは、この年の2月に福岡県で12例、また8月から9月にかけて東北地方を中心に集団発生(33例)があった事などが影響している。

表1:赤痢患者発生例数(全国;2000年-2011年)
表1:赤痢患者発生例数(全国;2002年-2011年)

わが国おける近年の赤痢の国内感染例は原因不明の事例が多いが、集団発生例などでは魚介類など赤痢菌に汚染された輸入食品を起因とするものも明らかにされている。

個々の感染場所は特定されないが、表1に示すように少なくとも感染場所が海外であった例は、2011年を除いて国内感染例より多く、54%から82%を占めている(2011年は国内感染例が多いいが、前述の集団例などが影響していると思われる)。このように海外感染例が多く認められるが、その感染国はそれぞれの訪問先への旅行者数にも関与しているであろうが、インドが最も多く、続いてインドネシア、中国、ベトナムなど、アジア地域で約80%を占めている。この他エジプトなどアフリカ地域での感染例も5%から10%ぐらい報告されている。

感染源としては、前述の通り輸入食品が注目されているが、近年輸入サルの保菌も年間30件から60件報告されるようになり、ペットなどにも注意する必要がある。

次に、分離された赤痢菌の血清型をみると、いずれの年も国内感染例及び海外感染例由来とも、S.sonneiが約75%と最も多く、次いでS.flexneriが23%であり、この2菌種で約98%を占めている。この他のS.dysenteriaeS.boydiiはわずか数例であった(表2)。S.flexneriの亜種をみるといずれの年も2aや3aが多く、その他2b、1aなどが数例認められている。

食中毒事例として2002年以降報告された事例は、合計21件、患者数137名であった。

表2:赤痢菌検出状況(全国;2000年-2011年) ( )内は海外感染例数の再掲
表2:赤痢菌検出状況(全国;2002年-2011年) ( )内は海外感染例数の再掲


※ データの出典:国立感染症研究所、感染症発生動向調査他



(更新:2012.10.18)

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