定期通信 第35号は、本協議会の副理事長である五十君 静信先生に「食品衛生管理の国際標準化の重要性と国内の食品衛生規制の見直し」をご執筆いただきました。 是非ご一読ください。
食品衛生管理の国際標準化の重要性と国内の食品衛生規制の見直し
五十君 静信 (特定非営利活動法人 食の安全を確保するための微生物検査協議会 副理事長)
食品の衛生管理へのHazard Analysis and Critical Control Point(HACCP;危害要因分析重要管理点)の導入については、食品の国際規格を定めるコーデックス委員会(国際連合食糧農業機関(FAO)及び世界保健機関(WHO)により設置された国際的な政府間組織)において、平成5年にガイドラインが示されてから既に20 年以上が経過し、先進国を中心に制度化が進められてきた。
HACCPは、食品衛生管理の国際標準としてEU並びにアメリカなどの先進国では、我が国から輸出する食品の要件となっている。平成7年以降、我が国も「総合衛生管理製造過程承認制度」をはじめ、様々な施策によりHACCPの普及を図ってきたものの、大規模事業者を中心にHACCPの導入が進んだ一方、中小事業者についてはその導入が伸び悩んでいる状況にある。
厚生労働省では、食品流通の多様化や国際化等を踏まえ、食品の安全のさらなる向上を図るため、フードチェーンを通じた事業者における自主管理の推進を図るとともに、食品用器具・容器包装の規制のあり方の見直し、食品の自主回収に対する対応等により、食品の安全の確保のための施策の充実を図るという方針を設定した。この下で、コーデックスが採用している食品衛生の国際標準であるHACCPによる食品衛生管理の制度化について議論を行ってきている。東京オリンピック・パラリンピックの開催される2020年には施行されていることを目標に、フードチェーン全体を対象としたHACCPの制度化が進められている。
このような食品衛生管理の大きな変化について、現在どのような議論が進められているかについてまとめてみる。
食品衛生管理の国際標準化に関する検討会での議論
厚生労働省では、平成28年3月に「食品衛生管理の国際標準化に関する検討会」を立ち上げ、公開で議論を行った。国内や諸外国の現状を踏まえつつ、我が国のHACCPによる衛生管理の制度のあり方について、この検討会では業界団体からヒアリングを行いつつ、3月~12月に計9回の検討会を開催して議論を重ね、同年12月に検討会の最終とりまとめを公開した。
この検討会では、食品関連業界団体からそれぞれの現状と課題についてヒアリングし、今後のHACCPによる衛生管理の制度化にあたって食品ごとの特性やそれぞれの業種の現況等を踏まえつつ、フードチェーン全体で実現可能な方法により着実に取組みを進めていくためには、どのような方針で進めるのが適切であるかの議論を行った。
方針としては、
① 一般衛生管理の着実な実施が不可欠であること
② その上で、HACCPによる衛生管理の手法を取り入れること
を確認した。
具体的には、HACCPの制度化は、全ての食品等事業者(食品の製造・加工、調理、販売等)を対象とし、衛生管理計画の策定を行う。一般衛生管理は、食品の安全性を確保する上で必ず実施しなければならない基本的な事項であり、加えて、食中毒の原因の多くは一般衛生管理の実施の不備であることから、食品の安全性を確保するためには、施設設備、機械器具等の衛生管理、食品取扱者の健康や衛生の管理等の一般衛生管理を着実に実施することが不可欠である。
このため、一般衛生管理をより実行性のある仕組みとする必要がある。そのためにはHACCPによる衛生管理の手法を取り入れ、それぞれの事業者が使用する原材料、製造方法に応じて、食中毒菌汚染、異物混入等の危害要因を把握し、それらの食品衛生上問題のないレベルにまで除去または低減するために特に重要な工程を管理し、検証・改善する仕組みを自ら構築し、実行することにより、我が国の食品の安全性の更なる向上を図ることが必要である。
検討会におけるHACCPの制度化の方向性
製造・加工、調理、販売等を行う全ての食品等事業者を対象として、HACCPによる衛生管理の制度化を進める。コーデックスのHACCPでは、運用に当たっては一律の運用を求めているわけではなく、食品等事業者の実情に合わせて弾力的運用を行うことが述べられている。このような実情にあわせたHACCPの弾力的運用をどのように具体化するかはフードチェーン全体でHACCPを導入する場合重要な課題である。
HACCPの制度化に際しては、食品等事業者が衛生管理計画を策定するが、コーデックスのHACCPの弾力的運用をどのように国内で実施すべきかについて検討が行われた。国内の方向性としては、衛生管理計画の策定において、コーデックスのガイドラインに基づくHACCPの7原則を要件とする基準A、一方、小規模事業者や一定の業種等を対象としては、コーデックスHACCPの弾力的な運用を可能とするHACCPの考え方に基づく衛生管理を要件とする基準Bへ適合することを求めることとした。
このような方向性を基に、各食品等事業者団体では基準Aまたは基準Bへの対応のための手引書を策定し、事業者の負担軽減を図るとともに、厚生労働省において助言、確認を行った手引書に基づき地方自治体が事業者指導を行うことにより、統一的な運用に資することとした。
食品衛生管理に関する技術検討会の取り組み
基準Bのガイドライン作成においては、行政並びに食品衛生の専門家等による助言が必要である。食品等事業者団体に対しては、「食品等事業者団体による衛生管理計画手引書策定のためのガイダンス(第1版)」(平成29 年3月17日付 生食監発0317 第2号 厚生労働省医薬・生活衛生局生活衛生・食品安全部監視安全課長通知)を踏まえ、基準A または基準B への対応のための手引書を策定することを奨励しており、これにより個々の事業者の負担軽減を図るとともに、厚生労働省においては、事業者団体による手引書策定に対して技術的な支援を行っている。
また、厚労省内に設置した技術検討会において確認を行った手引書を全国の地方自治体に通知し、制度の統一的な運用に資することとしている。このように、制度化の検討にあたっては、小規模事業者等の実効性にも十分配慮しながら、業界団体や地方自治体など各方面の関係者と連携・調整しながら進めている。