定期通信 第57号

定期通信第57号は、土屋 禎 理事(日本食品分析センター微生物部 部長)による書下ろしです。是非、ご覧ください。

食品製造機械の衛生的な設計
土屋 禎
NPO法人食の安全と微生物検査 理事、一般財団法人日本食品分析センター 微生物部 部長

1. はじめに

安全な食品を製造するための管理手法として、HACCPや一般衛生管理は広く知られている。一方で、食品製造に用いる機械の衛生的な設計については、あまり知られていない。

本稿では、関連する国内法規(食品衛生法施行規則)、国家規格(JIS)及び国際的なガイドライン(EHEDG)を参考に、食品製造機械の衛生的な設計について紹介する。

2. 国内法規

2018年6月13日に公布された「食品衛生法等の一部を改正する法律」(平成30年法律第46号)では、原則としてすべての食品等事業者に、 HACCPに沿った衛生管理の実施を求めている(HACCPに沿った衛生管理の制度化)1)

HACCPに沿った衛生管理を行う上で、一般衛生管理は必須であり、これまで各都道府県等の条例で規定されていた衛生管理基準は、現在、食品衛生法施行規則(令和元年厚生労働省令第68号)として、全国一律の内容で規定されている。

また、施設及び設備に関するハード面での要求事項として、各都道府県が基準を条例で制定する際に参酌する基準(以下「参酌基準」という。)が食品衛生法施行規則(令和元年厚生労働省令第87号)で規定されている。

機械器具に関わる参酌基準(表1)では、機械器具は、①適正に洗浄、保守及び点検ができる構造、②耐水材料で作られ、洗浄が容易で熱湯、蒸気又は殺菌剤で消毒が可能なこと、③固定する場合は、清掃及び洗浄しやすい位置に有すること、④組立式の場合は、分解及び清掃しやすい構造であることが求められている。

表1.機械器具に関する参酌基準

3. 国家規格(JIS)及び国際的なガイドライン(EHEDG)

国内法規には規定されていない、食品製造機械の衛生面における具体的な要求事項については、以下の規格及びガイドラインが参考になる。

・JIS B 9650-2 食料品加工機械の安全及び衛生に関する設計要求事項通則
 -第2部:衛生設計要求事項 2)
・EHEDG ガイドライン Doc.8 衛生設計原則3)
・EHEDG ガイドライン Doc.13開放型食品加工機械・装置の衛生的設計4)

なお、EHEDG(The European Hygienic Engineering & Design Group:欧州衛生工学・設計グループ)とは、食品メーカ、機械メーカ、大学、研究機関等を会員として設立された非営利団体であり、欧州における法規に準拠した、食品製造機械類の衛生設計基準及びガイドラインを提供している。EHEDGが提供するガイドラインは、現在55あり、様々な分野における適正な衛生設計のほか、食品製造インフラに関する実践的なガイダンス文書として発行されている。

JIS B 9650-2は、食料品加工機械(食品製造機械)の衛生面を確保するために必要な、一般的な要求事項について規定している。 この規格では、食品製造機械における、衛生面の危険源についてリスト化した上で、衛生リスクの見積もり及び評価の手順を示し、衛生リスク低減のための衛生要求事項について規定している(表2)。

EHEDG ガイドライン Doc.8「衛生設計原則」及びEHEDG ガイドライン Doc.13「開放型食品加工機械・装置の衛生的設計」は、いずれも欧州規格であるBS EN 1672-2:2005 5)及び国際規格ISO 14159:2002 6)の推奨事項と合致している。

これらのガイドラインでは、衛生リスクが高い構造及び低い構造について例示している。衛生リスクが高い構造とは、衛生設計のレベルが低いことを意味し、構造上、洗浄が困難で、食品残渣などの“汚れ”が隙間やデッドエリアに残存する可能性がある。食品残渣などの“汚れ”は、微生物の生残及び増殖を引き起こす恐れがある。このような構造を持つ場合、衛生リスクを低減させるために、より適切な方法で洗浄するなどの対策が必要となる。

表2. 衛生面の危険源リストの例

4. 衛生的な設計の具体例

JIS B 9650-2及びEHEDGガイドラインを基に、衛生リスクが高い構造(不適切な衛生設計)及び衛生リスクが低い構造(適切な衛生設計)の事例を次に示す。

4.1 表面形状

食品残渣(汚れ)や微生物の滞留を防ぐために、洗浄・清掃が容易な表面でなければならない。したがって、滑らかで、隙間、亀裂、継ぎ目のない形状が望ましい。表面形状の粗さの度合いを表すRaをパラメータとすることが望ましい。EHEDGガイドラインでは、ステンレス鋼の表面はRa0.8μm以下を推奨している。

4.2 接合部

洗浄・清掃を容易にするために、溶接による永久接合が望ましい。
溶接による接合部は、連続的に平滑で、スポット溶接及び重ね合わせは避けることが望ましい(図1)。
ボルトなどで固定された、取り外し可能な接合部は、平滑で、ガスケットにより隙間やデッドエリアが生じないように衛生的にシールする必要がある。

図1. 衛生リスクが高い/低い食品機械構造例(接合部)

4.3 排水性

タンク、配管など排水のための開口部を有する機械は、完全に自己排水できる構造(図2)であるか、バルブなどの機能を備えることで、排水可能にしなければならない。

図2. 衛生リスクが高い/低い食品機械構造例(排水性)

4.4 カバー

カバーは環境からの食品汚染を防ぐために用いられる。環境からの汚れの混入を防ぐとともに、洗浄・清掃が容易にできる構造であることが望ましい。したがって容易に着脱可能とするか、取り外しできないカバーは排水のために勾配を付けることが望ましい(図3)。カバーのヒンジは容易に分解可能で、汚れが滞留しない構造が望ましい。

図3. 衛生リスクが高い/低い食品機械構造例(カバー)

4.5 設置

洗浄・清掃を容易にし、保守・点検のためにアクセス可能な構造が望ましい(図4)。

図4. 衛生リスクが高い/低い食品機械構造例(接近性)

5. おわりに

安全な食品を製造するためには、HACCPや一般衛生管理といったソフト面での衛生管理と、施設及び設備におけるハード面での衛生管理の両面が必要である。 本稿では、ハード面の内、食品製造機械の衛生的な設計について、具体的な事例を含めて紹介した。食品製造に携わる方々にとって、参考になれば幸いである。


文献

1) 厚生労働省 食品衛生法等の一部を改正する法律(平成30年6月13日公布)の概要
  https://www.mhlw.go.jp/content/11131500/000345946.pdf
2) JIS B 9650-2:2021 食料品加工機械の安全及び衛生に関する設計要求事項通則
  -第2部:衛生設計要求事項
3) EHEDG Guidelines Doc.8(2018)Hygienic design principles:
  https://www.ehedg.org/guidelines/
4) EHEDG Guidelines Doc.13(2004)Hygienic design of equipment for open processing:
  https://www.ehedg.org/guidelines/
5) BS EN 1672-2:2005 Food processing machinery – Basic concepts
  – Part2: Hygiene requirements
6) ISO 14159:2002 Safety of machinery
   – Hygiene requirements for the design of machinery

(更新:2023.4.3)

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